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既にご存じの方がほとんどかもしれませんが、
なるたけ多くの読者様のご意見を頂戴したく記事でもお知らせさせていただきます☆

ただいまツイッターにて、
別の人の彼女になったよ~繋がれた舟の続編(タイトル・内容未定)の
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繋がれた舟の最終話コメント欄でもお伝えしておりますが、
どの曲になったとしても、ユンジェのいちゃラブは必ずありますヨ(^_-)-☆
公開はいつになるかわかりませんが、楽しみにお待ちくださいね。


☆;+;。・゚・。;+;☆;+;。・゚・。;+;☆;+;。・゚・。;+;☆;+;。・゚・。;+;☆

素敵な曲を提案して下さった読者様、本当にありがとうございました!
読者様のおかげでこのブログは進んでいけます。感謝いたします☆

♪。゚o。(★・ω・)人(・ω・★)。o゚。♪。゚o。(★・ω・)人(・ω・★)。o゚。♪




max13





繋がれた舟 8




ようやく松葉杖にも慣れて、明日は帰仙するというその日の夕方、
俺はテミンから聞き出したシムチャンミンの携帯に電話をかけ、人気のない公園に呼び出した。

来ないかもしれないとも思ったが、チャンミンは10分ほど遅れて待ち合わせ場所の時計台に現れた。
松葉杖で立つ俺の姿を見ると、一瞬歩みが緩む。
その頬が微かに上がったのを俺ははっきりと見た。

「お久しぶりですユノ先輩、お元気でしたか」
白々しい挨拶は無視した。
チャンミンは俺と距離を保って立つと、
「で、今日はなんですか」
と言った。

「テミンに色々聞いた。お前がテミンにさせたことも、ジェジュンにしたこともな」
「はぁ…。ちょっと何を言っているのかわからないですけど」
チャンミンはひょいと肩をすくめてみせる。
「わかってるに決まってるだろ」
そう言うと、丸い目をますます丸くした。
「それで? 僕のことを殴りにでも来ましたか、その松葉杖で。おお怖い」
人をおちょくる態度に腹が立つが、俺はそれも無視して続けた。
「お前、ジェジュンと付き合ってるんだってな。
どんな気持ちであいつのそばにいるんだ?
考えてみたけど想像もつかないんだ俺には」

俺はあらためてチャンミンを眺めた。

完璧なビジュアルに洗練された雰囲気、
黙って立っているだけで、そつなく人を惹きつける何かを発散する男。
柔和な顔立ちのせいで見下ろされても威圧感はない。
だが俺はこいつの内面を知ってしまったから……。
そういう目で見れば、黒目がちな瞳の奥に、歪んだ利己心が不安定に揺らいでいるのが透けて見える気がした。

「レイプした相手を騙して付き合って楽しいのか?」
「人聞きが悪いことを言わないで下さいよ。さすがにそれは僕に対して失礼すぎやしません? 
テミンに何を聞いたか知りませんけど、あの子は自分が罪悪感から逃れたくて、
僕を悪者にしてあなたの責めからも逃れようとしているだけじゃないんですか」

スラスラと滑らかによく動く舌だ。
頭の中ではさぞ忙しなく、数多の言い訳を考えているんだろう。常に。

「意識のない相手に無理矢理突っ込んでおいて、レイプじゃないだと?
同意の上じゃないセックスは完全にレイプだろう。
しかも他のやつらを使って、あいつを泥酔するまで飲ませて。
素面なら相手にされないとわかっていたから、そこまでしたんだろうが」

チャンミンを目の前にした時、自分がどうなるかわからなかった。
それが怖くて、ずっと避け続けてきたように思う。
だが真実を知った今、かえって落ち着いていられるのは、
俺の中でこいつを哀れむ気持ちがあるからだろうか。

計算尽くの人生はさぞ疲れるだろう。
いつ露呈するかもしれない、嘘から始めた恋愛のつじつま合わせも。

日が陰るように、チャンミンの表情が変わった。
得体の知れない、むき出しの悪意に近いものが、その目に宿った。
チャンミンは小さく鼻で笑った。

「ジェジュンは意識が全くなかったわけじゃない。
泣いて嫌がりましたよ。あなたの名前を呼んでね」
「っ…」
刺されるような胸の痛みに、思わず目を閉じる。
「でも、そのうちなぜかヘラヘラ笑い始めたんです。
またユノったら、そんなもの俺に入れようとしてなんて言ってね」
「やめろ」
「あなたのせいじゃないんですか? 
聞きましたよ、最初の頃ジェジュンにずいぶんひどい真似をしたそうじゃないですか。
無理矢理突っ込んだなんて、下品極まりない文句、あなたにだけは言われたくないな」
俺は静かに息を整えた。
怒ったら負けだとわかっていたし、そもそもこいつと勝ち負けを競うつもりもない。

「別に、過ぎたことを蒸し返して、お前にジェジュンと別れろなんて言うつもりはないから安心しろよ。
俺は明日仙台に戻るしな」
チャンミンの視線が俺の左脚をチラリと捉えた。
「その脚じゃダンスはできそうにありませんもんね。とんかつ屋稼業、頑張ってくださいね」
思わず笑いそうになるのを堪えた。

ジェジュン、お前……俺のことをチャンミンに話しすぎじゃないか?

「あいつはお前と寝たことで悩んでたよ。
理由がわからなくて不安だったんだろう。あいつは、男は俺しか知らなかった。
だから自分がゲイだとも思ってなかった。それなのになぜお前と寝たのかって
苦しんでたよ、あれからずっとな」
「……。」
「だからあいつは、お前を好きなんだと思うことにしたんだ。
好きじゃなかったら、寝るはずないってな。
あいつはそれくらい、真面目で傷つきやすい人間なんだ。
だからチャンミン……お前はジェジュンと付き合う限り、絶対にあいつに本当のことを言わないでほしい。
最後まで騙し通してくれないか。俺が言いたかったのは、それだけだ」

言ってから思った。
これじゃこいつの変なスイッチを入れるだけかもしれないなと。
案の定、チャンミンの顔がさっと朱に染まった。
「はあ?」
「俺の言い方が気に障ったなら謝る。
お前だって、まさかジェジュンと研究目的で付き合ってるわけじゃないだろう。
あいつを好いてくれてると思ってるから、どうしても言いたかったんだ」
「余計なお世話ですよ。大体、あんたあの人の何なんですか? 
別れた恋人なんていう赤の他人以下の存在で、僕に意見するなんて厚かましいにもほどがある」
「そうか」
苦笑してしまった。
それがまたチャンミンの怒りを煽ったようだった。

「ジェジュンはあなたのことなんかこれっぽっちも気にしてませんよ。
いつまでも自分の存在が特別だなんて自惚れないでくださいね。
もうあなたと付き合っていた頃のあの人じゃないんです。
就職も決まって落ち着いてるし、愚痴を言ったり馬鹿笑いもしないし、
みっともなく酔っ払ったりもしないんです。
だらしない格好でいることもない。
僕はあなた以上にあの人を抱いたし、セックスの作法も叩き込みました。
すべてにおいて、あなたが知ってるあの人とは別人になったんですよ」

目をむいて色をなし、唾を飛ばして食ってかかるチャンミンは、元が整った顔立ちのせいで一層醜悪だった。
それを見て俺は、突然なおざりな気分になった。
こいつと一緒にいて、ジェジュンが幸せなわけがないと思ったのかもしれない。
思わず舌打ちしていた。

「──恋人相手にペットの躾みたいなことぬかしやがって」
「はい?」
「その割にキャンキャンうるさいな、お前」
ぐっと、チャンミンが空気を飲み込んだ。

「俺は今からジェジュンの所に出向いて、洗いざらい本当のこと話して、仙台に引きずっていったっていいんだぜ。
それをしないのは何でかわかるか?」
チャンミンは腕組みをして俺を睨み付けた。
「現実的じゃないですね。そんなはったり、なんの脅しにもなりませんよ」
今度はため息が零れた。
「あのなぁ……他人がみんな自分の思い通りに動くと思ったら大間違いなんだよ、このサイコ野郎が」
言いながら、俺は首を鳴らした。
松葉杖じゃなきゃ一発お見舞いしたいところだ。
俺が踏み出すとチャンミンは二歩ほど後ずさった。

「お前がジェジュンをレイプしたって聞いた時には殺してやろうかと思ったが、
その後俺は逆に安心したんだよ。ああ、浮気でも何でもなかったんだってな。
可哀想に、ジェジュンはお前みたいなサイコ野郎に好かれたせいで散々な目に合ったが、
人生、時にはそういう不可抗力な出来事が起こるもんだろ?
俺は、ずっとあいつを守ってやらなきゃって思ってた。だけど、違った。
あいつが自分で乗り越えられるように、もっと早く手を離してやるべきだった。
信頼してやるべきだったんだ。俺はあいつを縛り付けて、危うく壊すところだったよ」
「抽象的すぎて、何が言いたいのかさっぱりわかりませんね」
「わからないだろうな、わかってほしいとも思わないよ」

くっくと、笑いが漏れた。

そうだ、ジェジュンは俺に繋がれた舟だった。
俺もまた、ジェジュンに繋がれた舟だ。

俺はそれが絆だと思っていたけれど、いつしか相手を縛るもやいになってた。
失う怖さが俺の手を止めて、必死にしがみつかせた。
だけど。

「お前があいつを作りかえようが、何度あいつを抱こうが、
あいつに受け入れられたことにはならない。
お前の存在自体が、幻みたいなものだからな。
正攻法でぶつかることもできなくて、嘘で固めた張りぼての自分で、
どうやってあいつに手が届く? どうやってあいつに触れるんだ?」
「だから、抽象的な話はやめろっ!」
チャンミンが怒鳴り、ぐっと拳を固めた。
よく見るとその拳が震えているのがわかった。

「ああ、その位人間くさいお前の方がまだいいぜ。その拳で俺を殴ってみろ」
「馬鹿馬鹿しい! くだらない話にこれ以上つきあう暇はないので、僕は帰ります」
くるりと俺に背を向けたチャンミンに、最後に俺は言った。

「俺は信じてるんだ。ジェジュンは必ず俺の元に戻ってくるってな」
「どうぞご勝手に信じていて下さい。あの人は僕のものです」

そうだろうか?
俺はそうは思わない。

遠ざかるチャンミンの背中を見送り、暗くなりかけた空を見た。
久しぶりに、星を探した。

「……北極星」

船乗りが頼るその星が、白く小さくまたたいていた。














 了






繋がれた舟 7




半年近く昼夜逆転の生活を送っていたせいで、
日中はとろとろと眠り、夜中になると目が覚める。
夜の病院は陰気くさく、闇が深い気がして落ち着かなかった。
どこからかずっと、機械のモーター音が聞こえる。
眠りたいのに眠れず、上半身だけで浅い寝返りを打った。
暗い天井をじっと見上げていると、悪いことばかりが浮かんで、
結局一睡もできないまま朝を迎える、その繰り返しだった。


「父さんさ、仙台に戻らなくていいの?」
昼間俺に付きっきりの母に、父のことを訊いてみた。
父は近くのホテルで電話やパソコンを使って仕事をしていたが、
そう何日も留守にするわけにはいかないだろうと思ったのだ。
「そうね。たぶん週末までしかいられないと思うわ。
お店も大変な時だから」
「俺はいつごろ退院できるんだろう?」
「松葉杖になったらね。その後は仙台でリハビリできる病院を紹介してもらうわ」
「そう…」
「ユンホ、お父さんね……震災の後、お店をいくつかたたんだのよ」
「え?」

被災地では復興バブルと呼ばれる建設ラッシュで、
各地から集まった建設関係者が飲み歩き、飲食業界は軒並み好景気だと聞いていたのだが。

「たん活亭は、お父さんが地場産の牛タンにこだわってきたでしょう。
それがあだになってしまったの。
原発の事故で牧草が放射能に汚染されたってニュースになって、
実店舗でもお土産品でも、うちの商品は避けられているのよ」
「でも、全頭検査もするようになったし、出荷制限もとっくに解除されたでしょう?」
母は力なく笑って首を横に振った。

「お父さんね、勘当したから学費を払わないってお前に言ったと思うけど、
本当は、払わないんじゃなくて払えなかったの。
今もね、あんな風にしか言えないけれど、お前に力になってほしくて……
なんとか一緒にたん活亭を立て直したいって、思っているんだと思うのよ」

父がいくつかの店舗をたたんだというのは、俺にとって衝撃だった。
でもだからといって、素直に父の手助けをしたいとまでは思えない自分がいた。
むしろ心の片隅で、いい気味だとさえ思ってしまう自分が。


午後、主治医から治療方針の説明があるとかで車椅子で向かうと、
半開きになったドアの向こうから、父の低い声が漏れ聞こえてきた。
「……なんとか、なんとかならんものでしょうか。
息子は踊る以外に能がない馬鹿者で、プロになるのが夢だなんて申しましてね」
俺はそっと、ドアの隙間に耳を寄せた。
「チョンさん、お気持ちはよくわかりますが……
後遺症が残らないようにリハビリをすることはできても、
元通り、つまり一定以上の負荷に耐えられるまでに回復するというのは、
残念ながら今の医療では不可能なんですよ」
「そこをなんとかお願いしたいのです。
金ならいくらかかってもかまいません、本当に、いくらでもお支払いしますから…!」
「いやですからチョンさん──」

少しずつドアを押し開くと、主治医に掴みかからんばかりの形相の父がいた。
その目が涙で濡れて光っている。
俺は急いで車椅子の車輪を押すと、その場から立ち去った。

息がうまくできなくて、人気のない通路の壁に手をつく。

父が俺のために泣いていた?

みっともないことを何よりも嫌う父が、なりふり構わず医者に訴えていたあの姿。
壁についた指先が、ドクドクと脈打っていた。

もしかすると父は、俺が思う以上に、不器用な人間なのかもしれない。
もしそうなら、父の言葉を待っていても無駄なのだ。
俺から話しかけなければ、会話は始まらないのかもしれない。

親子だから、家族だから……
何も言わなくてもわかりあえるなんて、嘘だ。

「踊る以外に能がないだ? あのくそオヤジ……」
不思議と、笑いがこみ上げてきた。
それから、何かあたたかなものが胸に満ちた。




翌日から始まったマッサージとリハビリは、
思わず悲鳴を上げたくなるほどの痛みを伴った。
傷口が塞がっていなくても、なるべく患部を動かさなければならないのだと看護師はいう。
そして足首意外の筋肉を萎えさせないための、平行棒を使った歩行訓練。
移動はまだ車椅子を使っていたけれど、すぐに松葉杖に変わるらしい。


その午後、まどろみから覚めると、
枕元に先ほどまでなかった小さな花かごが置いてあった。
傍らで文庫本を読んでいる母に声をかける。
「母さん、その花……誰が?」
母は本から目を上げて花かごを見た。
「あら気づかなかった。お母さんが離れている時に誰かが置いていってくれたのね」
黄色いガーベラとスプレーバラの花かごに母は目を細めた。
「可愛いわね」
「……母さん、携帯取ってくれる?」
手渡されたスマホで、テミンにラインを送った。

【花、ありがとう】
メッセージはすぐに既読になったけれど、返事は来ない。
【まだ院内にいる? 庭に行くよ】
そう送ると、しばらくしてから【はい】とだけ返ってきた。


車椅子で庭に出ると、ドアのすぐそばにテミンがいた。
「よ」
片手を上げると、曖昧に微笑んで俺の背後に回る。
「押してくれるのか? サンキュー」

広々とした庭には落葉樹が植えてあり、葉が鮮やかに色づき始めていた。
日当たりのいいベンチを指さすと、テミンは無言で車椅子を押し、横に車椅子を固定して、ベンチに腰掛けた。
風が吹いて、落ち葉が足元をカサコソと転がる。
まるで踊っているみたいに。

「僕はもう、先輩に顔向けできないって思ってました」
感情を抑えるような声に、俺はテミンの横顔を見た。
「どうして?」
「先輩が怪我をしたのは僕のせいじゃないですか」
「テミンのせいじゃないよ」
「嘘。先輩、僕の顔見て固まってたじゃないですか。
あれは驚いたからでしょう? 僕が来るとは知らなかったから」
テミンが俺を見る。
その瞳に、見る見るうちに涙が盛り上がった。
「うん、それは、驚いたんだけど。
聞かせてくれるかな、なんであの日あそこにいたのか」
テミンは俯いて目を擦ると、小さなため息を吐いた。
「チャンミンさんにチケットをもらったんです。
ジェジュンさんが、自分は大会には行かないってユノ先輩に断ったら、
じゃあテミンに渡してくれ、テミンなら喜んでくれるから、そう言われたって言ってました」
「は……?」

テミンは顔を両手で覆うと、頭を横に振った。
「そうです、そんなわけないんです。少し考えれば、そんなわけなかったんです。
でも僕は…っ、その話が本当だって思いたくて、だって僕は……」
指の隙間から、テミンの慟哭が漏れた。
「僕はまた…っ、チャンミンさんに騙されて、今度はユノ先輩を傷つけた…!
あの人がどんな人かなんて、とっくに知ってたのにっ」

何かがザラリと、俺を舐めた。

「──なんだって?」
テミンの肩が跳ね上がる。
「あ……」
仰け反るように遠ざかろうとする肩を、俺は両手で押さえつけた。
「テミン? とっくに知ってたって、なにを?」
「あ…ぅ」
掴まれた肩が痛むのか、テミンの眉根が寄る。
けれど俺は力を緩めることができなかった。

今テミンを逃したら、俺は永遠に真実を知ることができない、
それだけはわかったから。

「また? 今度は? テミン……以前は誰を傷つけたって? え?」

テミンの震えが手から伝わってくる。
俺は答えないテミンを激しく揺さぶった。
「言え! 言ってくれテミン!」
「うぅっ……僕はっ……追い出し合宿の、時、に」
ぶわりとテミンの目に涙が盛り上がり、頬を流れ落ちる。

「ユノ先輩を、振り向かせたいなら……ジェジュン先輩と、別れさせたい、なら、
協力……いわ、言われてっ…」
「うん」
つっかえながらも話し始めたテミンに、俺は頷いてみせる。

「シムチャンミンに、そう言われたんだな、それで?」
「チャンミンさん、ジェジュン先輩のビールに、う、ウイスキーを混ぜろって…っ、
部員の人たちっ……面白いこと、なるからっ、…って、それから──」

スノボ合宿の飲み会の光景が目の前に浮かんだ。
ジェジュンの両脇を固めていたやつら。
『だから追いコンの時、ジェジュン先輩のビールに──』
いつかのロッカールームの会話。

「あいつら……」
「ユノ先輩を…僕が、足留めしている間に、チャンミンさ、んは…っ」

テミンが震える手で、俺の手を引き剥がそうとする。
俺は力を緩めると、テミンの閉じた瞼を見つめた。
そこから押し出されてくる涙と、ひどく苦しげなその顔を。

「ジェジュン先輩を、レイプしたんです」











  

繋がれた舟 6




「ユノ先輩?」
「ジェジュン、就職決まったんだよな」
自分の声じゃないような低い声が出た。
テミンはこっくりと頷いた。
本当に二人は付き合っているのか、いつから付き合っているのか、
訊きたいことはいくらでもあったけれど、俺はなんとかその衝動を堪えた。
取り乱した自分を見せたくないという、ちっぽけなプライドもあった。
「そっか……」
普段なら休憩時間であっても酒は飲まないのだけれど、
干上がった喉を潤したくて、目の前のグラスを空けた。
あと一時間足らずで次のショーが始まる。
ショーごとに席代がかかるから、俺はテミンに退店するよう促した。
「ユノ先輩……僕の気持ち、迷惑でしたか」
俺の態度を深読みしたのか、泣き出しそうなテミンの頭を撫でた。
「ごめん。テミンのことはずっと、可愛い弟みたいに思ってた」
「これからも、弟なんですか」
「そうだと思う」
俺の言葉に、テミンはうなだれて帰って行った。


その夜も散々な失態を演じてしまった。
左足首に、このところなじみの違和感がある。
酔っているせいか、それが妙に気にかかった。
このままじゃまたBoAに叱られるな、と思ったが、
怒るよりも呆れてしまったのか何も言われなかった。

それがまたやるせなくて、客席ですすめられた酒をあおった。
これがやけになるってやつなのか。
テミンの前ではかっこつけていても、後からこみ上げてくるどす黒い感情は止めようがなかった。

ジェジュン、どうしてだ。
俺は一度も別れに同意していないのに、お前の中で俺は既に過去になってしまったのか。
シムチャンミンと付き合うだなんて、そんな形でまた俺を裏切るのか──。

やり切れなくて、苛立たしくて、気づけばかなり深酒していた。
ようやくすべてのショーが終わり、後は新入りに任せて、
店の裏口から明るくなりかけた通りへ出た。
「ユノ先輩!」
声をかけられて振り向くと、テミンがいた。
「帰らなかったのか」
「……帰れ、なかったです」
テミンが小さく言った。
そんな泣きはらした目をして、あれから何時間もここで俺を待っていたのか。
どんっと、体当たりするようにテミンが胸に飛び込んでくる。
俺はその細い身体を力いっぱい抱きしめていた。



まさか寮の相部屋にテミンを連れ込むわけにもいかず、
裏通りのラブホテルに入る。
そんな所に入った時点で、もう言い訳なんかできる状態じゃなかった。
「ぁ……ユノせんぱ…っ」
細くて筋肉質な、弾力を持つ身体はジェジュンとは全然違う。
そのバネのような身体をベッドに押し沈めながら、荒々しく唇を合わせた。
「はぁ!……先輩、好き…」
服をむしり取って、性急に素肌を重ねた。
お互いの反応しかけたものがぶつかり合い、
テミンが喜色を浮かべて声を漏らした。
首筋に唇を這わせると、俺の髪に指を突っ込んでかき混ぜる。
「あぁっ、ユノ先輩…!」
テミンの指が俺の髪に引っかかる。
「っ…、」
その痛みに俺は目をしばたいた。

俺は後ろ髪の一部を、三つ編み状にしてビーズで留めている。
いわゆるブレイズの真似事のそれは、
俺が寝ている間にジェジュンが悪戯して編んだのだ。


「ユノのロン毛好き。カッコイイ。
これ、願いが叶うまで切ったりほどいたりしちゃ駄目だからね」
そう言って、ジェジュンは俺の唇をついばんだ。
ばーか、就活するとき切るよ、と俺は答えた。
「願いが叶うまでってなんだそれ、ミサンガか。だったら俺じゃなくて、編んだやつの願いが叶うんじゃないの?」
俺は笑って、すぐそばにあるジェジュンの長いまつ毛に見入った。
ジェジュンは細かく編んだ三つ編みと、その先のビーズを手でもてあそんでいる。
「あはっ、そうだっけ。だったら俺のお願いは決まってるんだぁ」
首に巻き付いたジェジュンの腕の感触。
「なに?」
「ふふっ」
耳元で聞こえた、鼻にかかった甘えた声。
「ユノと、ずぅーっと一緒にいられますように……」


ハッとした。
同時に、自分に対する猛烈な嫌悪感が湧き上がった。
弟のようだと言いながら、テミンを寂しさの捌け口にしようとしている自分。
俺はゆっくりと身体を起こし、テミンから離れた。
「せんぱい?」
夢の中に置き去りにされたように、テミンが俺を呼んだけれど、
俺は二度と同じ夢の中には戻れなかった。
「ごめん……」
脱がせた服を手渡すと、俺の意図を察したのだろう、テミンは顔を俯かせた。
「謝られる方が辛いです」
震える声が言う。
「僕が先輩を好きな気持ちは変わらないですから」
「テミン、」
「何も言わないでください。この気持ちだけは、何を言われようと、僕だけのものです」
ぎゅっと胸に服を押しつけてテミンは言った。

そうだ、誰しもそうなのだ。
俺は目を閉じ、細く息を吐いた。




それから大会まで、俺はすべてを吹っ切るように踊り続けた。
身体を動かしていれば、頭の中が沈黙する。
【余計なことは考えるな】
その言葉さえも忘れるほど、全神経をダンスに集中させた。
寝る時間、食べる時間も惜しんで打ち込んだ。
疲れ切った身体は、ベッドに沈むと同時に夢も見ず眠りを貪った。
考えず、感じず、黙々と、課せられたサイクルをこなす機械にでもなった気がした。


大会当日、俺がチケットを送った招待席にジェジュンの姿はなかった。
おかしなことに、俺はその空席を見る度、失望を感じる以上に奮い立っていた。
なにくそ、と唇を噛みしめる。
いいだろう、お前が俺を捨てるなら、いつかそれを後悔させてやる。

順調に予選を勝ち進むうち、脚の震えが止まった。
身体は緊張をうまく味方にして、かつてないほど機敏に動かすことができた。

大丈夫だ、俺はジェジュンがいなくてもやれる。
きっと勝ち残ってみせる。

ファイナリスト決定戦。
参加者が順に呼ばれていき、
ついに俺の名前が呼ばれたとき、眩しいスポットライトを浴びながら、
武者震いのようなものが身体を駆け上がった。
ファイナリスト決定戦の参加者は6名、あと一勝すれば、俺の夢が叶う。

その時、客席から声が聞こえた。
「ユーノー!」
ハッとして見ると、空席だったその場所にジェジュンがいた。
「──ッ!?」

いや、それは俺の見間違いだった。
弾けるような笑顔で、大きく手を振っているのはテミンだった。
混沌とした感情が嵐のように心を吹き抜けていく。

どうしてテミンがあの席に?
普通に考えて、ジェジュンがテミンにチケットを譲ったとしか考えられない。
それはつまり、俺をテミンに譲る、そういうつもりなのか。

ジェジュン、お前は──

考えをまとめる間もなく順番が来て、音楽が流れ始める。
俺は混乱しながら、なんとかダンスに集中しようと必死だった。

あと一勝、このダンスだけでいいのだ。
そうすれば俺の夢が叶い、そして俺は──

俺は何を手に入れるのだろう?

最後の見せ場のバク宙、スタンフルツイストで着地した時、
わずかに左足が早く地面につき、俺の中で何かが壊れる音がした。

あまりの激痛に踊ることはおろか、脚を着くことすらできずうずくまる。
何が起きたのかわからなかった。
ずっと感じてきた足首の違和感が、痛みとしてその場所から噴出している。
音楽が止まり、担架を担いだスタッフが駆け寄ってくる。
俺は脂汗を流し、呻きながら、それをどこか他人事みたいに感じている。
意識の半分が、痛みから逃れようと身体を離れてしまったようだった。
朦朧となりながら客席に目をやると、テミンが泣いているのが見えた。
きっと俺も同じように顔を歪め、涙を流していたのだと思う。
火のような痛みが俺を呑み込み、すべてが黒く途切れた。



次に目が覚めたのは、病院のベッドの上だった。
見慣れない真っ白な天井、鼻につく消毒薬の臭い。
足元の椅子には母がかけていた。
俺の左脚は分厚く包帯が巻かれていて、変色した指の先だけが見えており、
少しでも動かそうとするとひどく痛んだ。
点滴のチューブが腕につながっている。
「母さん……」
掠れた声に、母が俺を見た。
「ユンホ、目が覚めたの」
「俺の脚、どうなったの」
骨折したことはわかっていたけれど、訊かずにはいられなくて訊いた。
「くるぶしの骨がね、疲労骨折しかけていたみたいなの。そこが折れてしまってね、
靱帯も断裂したのよ」
「……手術したの?」
全身を覆うだるさにそう訊いた。
「ボルトをね、何本か入れたの。ごめんね、お母さん先生が話している時、
気が遠くなってしまって、あまりよく覚えていないの。お父さんに訊いてくれる?」
言われてみると母の顔色が悪い。
母は椅子から立ち上がると、枕元に来て俺の手を取った。
「喉渇いてない?」
「大丈夫。ねぇ、俺の脚、元通りになるの?」
声が震える。
きっと答えを聞かなくても、俺にはわかっていた。
あの時、あの音を聞いた時に、もうわかっていた。
「元通りにはならんそうだ」
いつの間にか病室の入り口にいた父が答えた。
「普通に生活する分には差し支えないくらい回復するらしいが、
脚を酷使するのは控えた方が良いそうだ。
慢性的な痛みも残るかもしれない。きちんとリハビリを受けないと駄目だと言われた」
母の手にぎゅっと力がこもる。
見ると母は肩を震わせて嗚咽を堪えていた。
何も言えずにいると、父がため息を吐いた。
「お前も馬鹿なことをしたもんだな。だが考えようによっては良かったじゃないか。
これで心置きなく、店の仕事に打ち込めるじゃないか。そうだろうユンホ」
父なりの励ましなのだと思おうとしたが、
俺の心にまだそれを受け入れる余地がなかった。
「お父さん、そんな言い方──」
「いずれ知ることになるんだ、甘やかすな」
ただ涙だけが溢れて、頬を生ぬるく濡らした。
「一人にしてもらっていいですか」
泣き顔を見られるのが嫌で、顔をそむけてそう言うと、
二人は何も言わずに病室を出て行った。

「……っ」
たぶん、こうなってしまったのは誰のせいでもない。
少しずつ積み重なった偶然が、俺にとっては最悪の結末だったというだけで。
たぶん、父の言うことは間違っていない。
中途半端に未練を引きずるより、いっそ潔い幕引きだった。
たぶん、あのまま夢が叶ったとしても、
俺は踊り続けることはできなかった。

ダンスを愛してきた。誰よりも上手に踊りたかった。
だけど一番見て欲しい相手がもういないんじゃ……。

いや、たとえそうだとしても俺は踊りたかった。
誰も見てくれなくてもいい。
評価してくれなくてもいいから、踊りたかった。
「く、っ…」
こんな時、大声で泣いた方が楽になれるのだろう。
別に誰に何を思われようと構わない、悲しいのなら泣けばいい。
ああ、そうだ。
悲しい映画を見たときのように──。
「ふふっ」
ジェジュンの前でよく泣いたな、俺は。
何十回も観た映画の結末なんて良く知っているのにワンワン泣いて、ジェジュンは呆れていたっけな。
「くっくっく…」
涙がボロボロ零れたけれど、俺は背を揺らして笑っていた。
悲しいのかおかしいのかわからなくて、
ただ脚の痛みと、胸の痛みだけを感じた。

俺は駄目だね、ジェジュン。
一つでも夢を叶えたら、お前が戻ってくるような気がしていたなんて。
「馬鹿だね、俺──」

ねぇ、悲しい映画を観てもジェジュンは泣かないけど、
こんな俺を見たら、きっと泣いたでしょう?
だから、お前がここにいなくて良かった。










繋がれた舟 5




ショーが始まる前の一瞬の静寂と暗闇が好きだ。
籠もった熱気の中で、俺は息を潜める。
俗塵を離れた束の間の祭礼が始まる。
それはひどく猥雑で、目も眩むほどきらびやか。
音楽とリズム。歓声とクラップ。
息もつかせぬ立て続けのビート。
確かなものは一つとしてない。
けれど夢幻の華やぎだけがある。
それではどうぞ、お望みのままに……
ひとときの夢の対価はいかほどでしょう?



ここに来てほぼ五ヶ月が過ぎた。
当初右も左もわからないショービジネスの世界だったが、
俺は自分でも驚くほどの早さで順応できたと思う。
姫ことBoAとのカップルダンスが好評を博して、
異例のスピードでソロステージも用意されるようになっていた。
給与はまだ据え置きで、税金や寮費、衣装代やヘアメイク代などを差し引かれると
手元にはたいした額が残らなかったが、観客からのチップで日々の生活費と、アパートの家賃をまかなうことができた。

かつての自分を知る人間が誰もいない場所で、名前すらも変えて、
俺は真面目な大学生チョンユンホではなく、
夜の水を泳ぎ回るユノユノになった。
露出の多いセクシーな衣装に、劣情を煽るエロティックなダンス。
腰を振る度、歓声が高くなる。
衣装の隙間という隙間に紙幣が挟み込まれ、
時にはあからさまに股間を撫でていく手に投げキッスを返して客同士の敵愾心を煽る。
俺の固定客には男も女もいた。
ショーの合間に客席を回ると、みんな羽振りの良さを競って高い酒をオーダーしてくれるから、ホステスにも喜ばれた。
店内の暗がりで誘われることも数知れなかったが、
刹那的な快楽は得られても、特別な感情を抱く相手も、高揚を覚える相手もいなかった。

ジェジュンと別れてから俺の人間的な感情の一部は麻痺してしまい、
生きていると感じられるのはステージで踊っている時だけ。
それだって俺は目の前の観客ではなく、まだ見ぬ未来のステージを夢想していたのだから。



6月末だろうか、ジェジュンから頻繁にラインと着信があったのは。
俺が大学を中退したことを知って慌てた様子のメッセージが幾度も送られてくるのを、
文頭だけ通知画面で読んだ。
その後も、時折気まぐれにジェジュンからの着信を知らせる電話を見るのは辛かった。

サークル仲間や共通の知人から、ジェジュンとチャンミンを飲み屋で見かけただとか、
それとなく二人の関係をほのめかされていた俺は、ジェジュンと連絡を取るのを避けていた。
電話に出れば今度こそ本当の別れを切り出されてしまいそうで。
我ながら情けないと思いつつ携帯電話を解約し、新たな番号で契約し直した。

ここでバイトを始めたのは思う存分踊るためだったのに、いつしかダンスの練習にも身が入らなくなっていた。
あるときBoAに叱責された。
「ユノ、しっかりしてよ」
カップルダンスの練習中に、俺が上の空だったからだ。
「ユノさ、プロダンサーになりたいって言ったよね。
でもあたしもここにいる皆も、プロのショーダンサーなの、
一つ一つのステージに命かけてやってるの。
何か辛いことがあるのかもしれないけど、ステージを逃げる手段にしないで!」

確かに、俺の中でショーを軽んじる気持ちがなかったと言えば嘘になる。
夜の酔客相手のステージに、一体どれほどの価値があるだろうと。
BoAにも言ったことがあった。
こんなところで踊るんじゃなくて、もっと大きな世界を目指すべきだと。
その時彼女は何も言わなかったけれど、心の中では苦々しく思ったに違いない。
「ごめん、そういうつもりじゃ…」
「無意識ならなおさら悪いわ」

結局その日BoAは違うパートナーと踊り、
俺はソロでも乗り切れず、客席の盛り上がりもいまいちだった。

ダンスが逃げる手段……。
ジェジュンからも父親からも、俺は逃げているんだろうか。
連絡も取らず勝手なことをしているのだろうか。

翌日、俺は久しぶりに実家に電話をかけた。
「もしもし」
すぐに電話口に出た父の声は、疲れて聞こえた。
勘当されたのだから謝る必要もないのかもしれないが、
しばらく連絡しなかったことを詫び、新しい電話番号を伝えた。
「お前はまだ帰らないのか。どうやって生活しているんだ」
「住み込みの寮のあるところでバイトしながらダンスの練習をしているよ」
「諦める気はないのか」
「……諦められないよ父さん。きっと俺、挑戦しないまま諦めることはできないんだと思う。
でも、約束するよ。10月のダンスコンテストで3位以内になれなければ、俺は二度とダンスの夢は追いません」
「戻ってくるんだな?」
「はい。だからそれまでは、俺の我が儘を許して下さい。俺に時間を下さい」
「……いいだろう」
父は最後まで俺の夢を認めるとは言ってくれなかったが、
俺の気持ちはずいぶん軽くなった。


ジェジュンには、さんざん迷った末、電話ではなく手紙を書いた。
俺がジェジュンを想う気持ちに変わりはないこと、
連絡先を変えたのは、ダンス大会に集中して取り組みたかったせいであること、
そして、スマンさんから譲り受けた関係者しか入手できない観覧チケットを一枚同封した。
俺がやり遂げるところを見に来てほしい。
きっと夢を叶えてみせる、生まれ変わった俺をジェジュンに見せる。
そんな決意をしたためて、祈りながらポストに投函した。

ジェジュンがダンス大会に来てくれますように──。



テミンから会いたいと連絡が来たのはそんな時だった。
仕上がり具合を確認してほしい気持ちもあり、よく行く体育館のダンススタジオで落ち合った。
「お久しぶりですユノ先輩!」
変わらぬ笑みに、ほっと気持ちがほぐれた。

練習後、床に足を投げ出して話し込んだ。
サークルのこと、大学の話、ダンスの振り付けについて、テミンは熱心に話すけれど、
こちらが訊いていないことについては話さない。
そんな気遣いがありがたかった。

「そっか…スマンさんとそんな話をしていたんですね」
「それだけの実力があれば、だけどな」
「ショークラブで働きながら昼間は練習してきたなんて、並みの人間にはできない努力だと思いますよ。
僕、ユノ先輩のこと心から応援します。絶対優勝できますよ!」
「優勝?」
「はい、どうせ目指すなら優勝でしょう?」
「そうか……そうだな」
「見たかったな~本番でユノ先輩が踊ってるところ」
チケットの一般販売がないことを知るとテミンは悔しがった。
「そのうちYouTubeでアップされるらしい」
「そうなんだ!」
嬉しそうにパチパチと手を鳴らすテミンが、ふいに俺の方を向いた。
「ユノ先輩、この後先輩の店に行ってショーを見たいです」
俺は目を丸くした。
「え……テミンが来るようなところじゃないと思うぞ」
「なんでですか、僕もう成人してますよ」
「う~ん、まぁそれは…そうなんだけど」
「ね、僕先輩がショーで踊るのが見たい」

結局押し切られる形でテミンを店まで案内した。
23時からのショーを終え、休憩時間にテミンの席に向かう。

「ユノ先輩かっこよかったぁ」
酒で薄らと頬を赤くしたテミンが、俺に寄りかかった。
「この衣装も、先輩の男らしさとたくましさが強調されてて、
見ているうちに身体が熱くなりました」
むき出しの二の腕に、テミンの腕が絡んだ。
「おいおい、酔ってるのか」
薄暗い中、テミンを覗き込む。
潤んだ瞳と目が合ってドキンとした。
「チップもすごかったですね。サスペンダーや帽子がお札だらけになってた」
「はは、わざと挟みやすい衣装にしてるよ」
「先輩……」
テミンが伸び上がるようにして、俺にキスをした。
「好きです、ユノ先輩。僕と付き合って下さい」
俺は咄嗟に返事ができなくて、ただ固まっていた。

「ジェジュン先輩、チャンミンさんと付き合ってますよ」

呆然としていたところに、焼けた鉄を押し当てられるような痛み。
俺は思わず歯を食いしばった。











繋がれた舟 4




ザーザーと水の流れる音で目が覚めた。
部屋の中はうす青く、まだ夜は明け切っていなかった。
水回りにつながるドアの前に黒い塊がある。
目を凝らすと、それは腹を抱えてしゃがみ込んでいるジェジュンだった。
ハッとなって起き上がった。

「ジェジュン」
手探りで電気を灯すと、ジェジュンが白い顔で俺を見上げた。
「ひどいよ、ユノ…」
「悪い、後処理するの忘れて──」
「就職決まるまでセックスしたくないって言ったじゃん!」
叩きつけるように言われて固まった。
「俺が酔っ払ってたからって、なんで約束破るの」
「ごめん」
「どうせ忘れてたんでしょ」
忘れてはいなかった。
ただ、ジェジュンも俺を求めてくれたから、許されたと思ってしまった。
「俺、明日も面接あるのに……ひどいよ」
「ごめん」
「ユノさぁ……マジで一回やられる側になってみたら? どんな気持ちするかわかるからさ」
ぐずぐずとジェジュンが鼻をすする。

「……俺さ、最近面接受ける度に思うの。
ここにいる面接官全員、俺が男とやってるの知ってんじゃないかなって。
だから受かんないんじゃないかって、思っちゃうの」
「ジェジュン、そんなわけないから」
「俺はホモですよ~って、顔に書いてあるんじゃないかな。
それか態度に出てる? もう、わかんないんだよね自分のこと。
ねぇユノは最初なんで俺を抱こうって思ったの」

涙声で訊かれる。
答えられずにいると、ジェジュンは泣き笑いした。
「ユノもチャンミンも俺がホモにしたようなもんじゃんね。
なんか申し訳ない気持ちでいっぱいだよ、ごめんね」
「ジェジュン悪かった。ちゃんとベッドで休もう、な」

俺はジェジュンを立たせようと手を差し伸べたが、パシリと払われた。
「触んないで」
「ジェジュン……」
「ユノは俺がずっと無職で、セックスさせなくて、ご飯も作んなくて、家事もやんなかったら、絶対俺と一緒にいないよね。
俺ってユノの何なんだろうね。結婚も子どももできないから、奥さんじゃないしね」
「結婚は、いずれしようって話しただろ?」
「叶いっこないよそんなの。ユノの話はいつだって夢みたいなことばっか。
一つでも叶えてから言ってよ、じゃなきゃ口にしないで」

ジェジュンは自分を抱きしめるように小さくなった。
「お腹いたぁい……」
ぽろぽろと涙を零して、ジェジュンは呻いた。
「お腹痛いよぉ」

俺はどうしていいかわからなくて、せめてジェジュンが寒くないようにと、
寝室から持ってきた毛布を丸まった背中にかぶせた。
ジェジュンと同じように床にしゃがむ。
酒は抜けたようだが、まだ煙草の臭いはしているし、
汚れた身体で目が覚めて、ジェジュンはどんな気持ちがしただろう。
抱くだけ抱いて寝落ちした自分をいまいましく思った。

「ユノ、ごめんね。俺ね、自分の事でいっぱいいっぱいなの。
セックスもしたくないし、家のことも何もしたくないの」
「うん、わかった」
「でもユノがいると、ちゃんとしてない自分を見せつけられるみたいで辛いの。
責められてるみたいで苦しいの。自分がどんどん嫌になるの。どんどん自信がなくなるの」
「うん…」
「お願いだから、俺と別れて。このままだと俺、駄目になる。ユノが出て行かないなら、俺が出て行く」

俺は静かに目を閉じた。
ジェジュンのために俺が叶えてやれることは、それしかないのか。

「わかった。俺が出て行く。
落ち着くまでの間、離れて暮らそう。だけどジェジュン──」
声が震えるのを気づかれたくなくて、俺は唾を飲んだ。

「忘れないでほしい。俺はお前と別れたりはしない。
これは別れじゃない、ただ冷却期間を置くだけだ。そうだろ?」

ジェジュンは答えなかった。
歪む顔を見られたくなくて、俺は寝室に戻ると荷物をまとめ始めた。
数日分の着替えと、貴重品と身の回りの品をバッグにつめ、本棚を見回す。
大学の単位は取りきっていたから、授業に参加する必要もない。
そもそも父に勘当されてしまった今、卒業など到底無理な話だった。

洗面所に行き、ひげ剃りやシェービングフォームをつめると、もう俺に必要なものは何もなかった。
一番必要なものは置いていくのだから。
どこへ行こう。
とりあえず友人の所へ?

「じゃあ、ジェジュン。またな…」
顔を上げず、返事もしないジェジュンの前に合鍵を置いた。
お揃いのキーホルダーがチャリ、と小さな音を立てた。







友人宅に転がり込んで2日目、求人誌を読み漁って見つけた広告に惹かれた。
【男性ショーダンサー急募! 未経験者大歓迎 時給1100円~3500円*勤務内容による
勤務地六本木 社員寮あり 勤務時間19時~翌3時】
ショークラブのアルバイトの求人だった。

面接に行くとその場で踊らせられ、すぐに合格となった。
支配人らしきひげをはやした痩せた中年男に店内を案内される。

窓のない暗い店内には蛍光色の派手な照明やスポットライトが灯り、
広いとは言えないステージを囲むように円卓が配置され、ソファーや椅子も並んでいる。
壁際には性器を象った彫像や、セックスを連想させる絵画がずらりと並べられていた。
卑猥で乱雑な店内の様子から、ここでどういったショーが繰り広げられるのかと考えてみる。
確か風俗店ではなかったはずだが。

「あんたは時給1100円からスタートね。雑用もしてもらうから勤務時間は17時から5時でいいかな? 
あ、ちなみに0時までは時給980円ね。休憩は無給で2時間」
そうすると一日辺りの稼ぎは、と頭の中で素早く計算する。
1万五千円にはなりそうか。
「社員寮に入りたいんですけど、空きはありますか」と訊ねると、相部屋でいいならと言われる。
「寮の家賃は月5万ね。あと水道光熱費で1万」
ジェジュンとシェアハウスをしているアパートの家賃は6万円。
月に20日働いたとして、家賃が払えて手元に10万残れば御の字だ。
俺は雇用契約書と入寮申込書に記入し、押印して支配人に渡した。

「二ヶ月間は試用期間だからね。あんたには女性ダンサーとのカップルダンス踊ってもらうからね。
ただね、うちの姫が気に入らないとすぐクビだからね、頑張ってね」
「はぁ…」












繋がれた舟 3




その夜もジェジュンの帰りが遅く、俺は苛々していた。
電話が鳴り、ジェジュンかと見たら実家の番号が表示されている。
父だ、と反射的に身構えた。
「もしもし」
「ユンホか。お前いつこっちに顔を出すんだ。春休み中に来るかと思ったのにもう四月じゃないか」
「ごめん。俺が帰っても、やることないかと思って…」
「お前なぁ、こっちがどういう状況かわかるだろう。片付けや引っ越しで男手がほしいんだ。休学してもいいから戻ってきなさい」

俺にはわかっていた。
今帰郷したら当分の間、いやもしかするともう二度と、ここへは戻れないだろうと。
父はそのまま俺をたん活亭に就職させてしまうだろう。
どっちにしろ就職するのなら早いに越したことはない、そういう考え方をする人だ。

元々父は俺が進学し上京することにいい顔はしなかった。
自分が身をもって示してきたように、牛タン屋に学など必要ないという考えの持ち主だったからだ。
けれど俺は必死に父を説得した。時代が違うと。
祖父の始めた小さな店から、一代でたたき上げた父の商才は尊敬に値するが、
これからはきちんと経営の基礎を学んだ方がいい。
家族経営だからこそ、父のようなワンマンではいずれ立ち行かなくなると。
そんな尤もらしい理屈で、俺は時間稼ぎをしたかっただけなのかもしれない。

「父さん……」
自分のやりたいことが、たん活亭を継ぐことではないとはっきりした今、
父を失望させるとわかっていて重い口を開く。
「俺はもう店を継ぐことはできなくなりました」
「何を寝ぼけたことを言っているんだ?」
「父さん、俺、プロダクションの人に声をかけられました。
プロのダンサーになってダンスで生計を立てるつもりです。
10月にそのための審査があるんです。だから仙台には戻れません」
「そんなことが許されると思っているのか」
「父さんを失望させるのはわかってます。許されるとも思ってない。
でもどちらにしても父さん、俺があの店を継いだら後がなくなりますよ」
「どういうことだ」
俺は薄暗い部屋に視線を巡らせた。
ジェジュンの花柄のエプロンが壁にかかっている。
それはもう長い間、使われずそこにある。
ふいに寂寥としか呼べない感情がこみ上げてきて、喉を焦がした。

「結婚したい相手がいます。名前はキムジェジュン、ご存じですよね」
しばらく沈黙が続いた。
受話器の向こうで父の喘ぐような呼吸が聞こえた。
「……一緒に住んでる男か。お前は最初からそういうつもりで」
わなわなと声が震えている。
「それは違います。暮らし始めた頃はお互いにただの同期生だった。
でも今はかけがえのない相手です。一生をともにしたいと思ってます」
「ふざけるのもいい加減にしろ!」
「俺は本気で言ってます。
同性同士の結婚は、今はまだ認められていないけれど、きっと近い将来認められるようになる。
そしたらジェジュンと籍を入れるつもりです。だから俺のことは諦めて下さい。
父さんの望むようには生きられないから」
「頭がおかしくなったのかユンホ! お前、高校の時は普通に女の子と付き合ってただろう!?
父さん覚えてるぞ、マリさんとかいったなあのお嬢さん。それにほら、東条先輩とかいうのもいたな、
飲酒して補導された相手だよ、父さん会社に電話かかってきて恥をかいたな」
「父さん」
「お前は違うだろう、男が好きなんて嘘じゃないか」
ふいに父が笑う。
その笑い声を聞いた途端、涙が頬を伝った。
「それともそのキムジェジュンっていうのはニューハーフか、なんだあの、テレビに出てるみたいなのか。
女装とか、性転換とかしてるやつなのか。だったら女でいいじゃないか」
「父さん!」
「認めんぞ、そんな男か女かもわからんようなのと結婚だなんて絶対に認めん!」
「そう言われると思ってたよ。父さん、俺のことなんか認めてくれたことないもんな。
いつだって頭ごなしに否定して、ちゃんと話を聞いてくれたこともない」
「何を言ってるんだ、お前が望んだから進学だって許したし、東京にだって出してやっただろう!」
「でもそれは店のためになるって俺が説得したからでしょう。
俺が心からやりたいって言ったことを認めてくれたことが一度でもあった? 
ダンスだって留学だって、相談した時に俺にきちんと向き合ってくれた? 
忙しい忙しいって店のことにかかりっきりで、俺もジヘも、父さんが学校行事に来てくれたの見たこと一度もないです。
俺たちがどんな思いで過ごしてきたか、父さんは知らないでしょう」
「ユンホ、お前は誰のおかげで何不自由ない生活ができたと思ってるんだ!
自分の力で稼いだこともないくせに偉そうな口を叩くなっ。
お前がその男と別れない限り、私は学費も生活費も一切出さん! うちの敷居もまたがせないからな」
「……それは俺を勘当するということですか」
「そうだ。親子の縁を切る」
「ハハ…」
俺は腕で涙を拭った。
親らしいことをしてもらった記憶もない俺は、
金だけが父との繋がりなのだと言われたようで虚しかった。
「わかりました。親子の縁を切って、自分の力でやってみます」
返事は聞こえてこなかった。



夜半過ぎ、酔ったジェジュンが帰宅した。
眠れずにいた俺は、ふらふらと足元の危ないジェジュンに近づくと何も言わずに腕に引き寄せた。
「ん~なにすんの、さ」
ジェジュンの全身からは煙草の臭いがした。
「お願いだから、ジェジュン」
髪に口づけてもピクリとも身じろぎしない身体を抱いて、俺は泣いていた。
「お願いだから…、っ」
「──ユノヤ?」
急に夢から覚めたように、ジェジュンが俺を見上げた。
「ジェジュン、頼むから──」
俺はジェジュンの肩に顔を押しつけた。
「っ…」

そばにいてくれ。
別れるなんて言わないでくれ。
俺を一人にしないでくれ。
伝えたい言葉はどれも喉につかえてしまい、嗚咽だけが漏れた。

俺はお前がそばにいないと不安でたまらない。
俺に駄目なところがあれば努力して直すから、お願いだから……

「どうしたの、どうして泣くの」
ジェジュンがおろおろと背中をさする。
ちゅっと音を立てて何度もこめかみにキスをされた。
まるで子どもをあやすような仕草。
「こんなに泣いて……俺がユノを泣かせたの?」
シャツの袖で俺の涙を拭き、ジェジュンは俺にキスをした。
柔らかい唇が俺の唇をついばんで、ぬるりと舌が舐めた。
「じぇじゅん……」
ゾクリとした震えが背中を駆け登る。
ジェジュンからキスをされたのがいつぶりかわからなかった。
俺は離れていく唇を夢中になって追いかけた。

「んっ、ン」
キスはアルコールの味がした。
「はぁ……ユノ、」
ラグの上に重なり、服を脱がせ合う。
「んっ、ゆのっ」
「ジェジュン、ジェジュンア…!」
真っ白な肌が露わになり、ゴクリと唾を飲む。
許された果実に手を伸ばす。
柔さの中にある固さ。
固さの中にある柔さ。
「ああ…、ユノ…」
全身を使って味わった。
確かにジェジュンは女ではないけれど、
これほど俺と合う対が他にあるはずがない。
「ジェジュン…」
俺の下で息づき、震えるジェジュンを思うさま愛した。
「はっ、うっ、うぅ…ん!」
狭い場所を開き、突き上げて、その奥に溢れる熱を注いだ。

気を失うように眠ってしまったジェジュンを抱きしめる。

長いまつげも、赤い唇も、雪のような肌も、その温もりも、
ジェジュンのすべてが、痛いほどに胸をかきむしった。















繋がれた舟 2



続けてもう一度画面に浮かんだメッセージは、
【どうして既読スルーするんですか】
だったから、俺はほっと息を吐いた。
シムチャンミンが一方的にメッセージを送ってきているだけだ。
迷惑ならブロックしてしまえばいいようなものだが、それができないのがジェジュンらしいと言えばらしい。
俺はスマートフォンを元通り床に戻し、リビングへ向かった。



サークルは追い出し合宿で一応引退ということにはなっていたが、俺は時々顔を出していた。
実力派の後輩グループにアドバイスを求められることもあったし、
踊らないことで自分のダンスの勘所みたいなものを失うのが怖かったからだ。
それに俺は就活する必要もなかったし。
俺に他の兄弟はいない。
父に反発を覚えつつも、店は自分が継ぐんだろうというぼんやりとした自覚だけはある。

その日、合同練習の体育館に赴くと、テミンやカイ、ベッキョンが熱心に練習していた。
当然ながらシムチャンミンの姿はない。
そのことに安堵する自分がいた。
「ユノ先輩!」
中でも特に俺に懐いている後輩のテミンが、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「お疲れさまです、今日はスマンさんが来るそうですよ」
「スマンさんが?」
「ユノ先輩のこと、諦めてないんじゃないですか?」

スマンさんは大手プロダクションのスカウトマンで、去年の学祭の時に声をかけられた。
俺のダンスを買ってくれて、本気でプロにならないかと言ってくれた。
大学を中退して事務所のダンススクールに数年間所属すればデビューさせてやるとも言われていた。
当時の俺は曖昧な返事をしてしまったが……。
プロのダンサーか。
突然、俺の中にムクムクと野望めいたものが頭をもたげてきた。
もし俺がプロダンサーになったら、ジェジュンは俺を見直してくれるかな、なんて馬鹿げたことを少しだけ考えた。
とはいえダンサーの収入だけで食べていこうと思ったら相当有名になるしかない。甘くない世界だ。
ダンスは好きだし、中学の頃から熱心に学んできたつもりだけれど、
はたして自分にプロの世界で通用するほどの実力があるのか、正直わからなかった。


練習に汗を流していると、いつの間にかスマンさんが体育館の入り口からこちらを見ていた。
「いや~ユノ君はやっぱり持ってるなぁ」
踊り終わると、パチパチと手を鳴らしながら近づいてくる。
「スマンさん、あの、今更ですけど例のスクールの話って…」
「ん? ああ、あの時返事してくれればまだ空きがあったんだけどなぁ。
もう埋まっちゃったよ。それに今日は、カイくんを見に来たんだ」
申し訳なさそうに、そうに言われた。
「いえ、すみません」
俺はタオルで流れ落ちる汗を拭いた。
「ユノ君、10月にあるダンスコンテストに出てみるかい?」
「え?」
「SD協会主催の全日本大会だよ。うちも協賛してるんだけど、もしその大会でユノ君が、
そうだなぁ……三位以内に入賞できたら即デビューさせてあげられると思うよ」
「本当ですか!?」
「いや、それほどの実力があるならっていう話だから」
スマンさんは笑って片手を振ってみせた。
「俺、出ます!」
「そうか。じゃあ大会名を検索してくれればサイトが見つかるから、そこからエントリーしてくれ。
当日は私も会場にいるよ。楽しみにしてる」
ぽんと俺の肩を叩くと、スマンさんはカイに声をかけにいった。


早めに練習を切り上げた俺は、シャワー室で汗を流しロッカールームに戻った。
遅れて練習に来たらしい数人が、ロッカーの向こう側でふざけ合う声がしていた。

「それってあり得なくね?」
「だーからー、ジェジュン先輩が酔うと可愛くなるっていう伝説があって~」

思わぬところでジェジュンの名前を耳にして、俺は着替えの手を止めた。

「ジェジュン先輩って、二年の時の飲み会でその場にいた男全員にチューしたっていう噂なかったですか?」
「いやそれは違う、全員じゃない。俺を含めた選ばれし数人だけがチューできたんだ」
「げ~」「男とチュー…」
「ばーか、酔ったジェジュン先輩の破壊力やべぇぞ? その辺の女よりぜんっぜん色気あるからな」
「あーわかりみ」
「でもそれ以来ユノ先輩が、ジェジュンはビール以外の酒は禁止~!って」
どっと笑い声が上がった。

俺はいつスノボ合宿の話が出るのかとヒヤヒヤする一方、
女の子目当てでサークルに参加しているようなチャンミンが、
ジェジュンと寝たなどと口が裂けても言うまいとも思う。

「ユノ先輩のガード堅いっすもんね」
「まじ鉄壁っすよ」
この会話はまだ続くのか、と辟易してくる。
「だから追い出し合宿の時、ジェジュン先輩のビールに──」
ゴホンと大きく咳払いをすると、会話がピタリと止まる。
声と口調で誰が話しているかは大体わかった。
他大学のやつらだ。
こいつら二度と絶対ジェジュンに会わせない、と思ってから、
まずもう会う機会がないのだと気づいて苦笑した。
「お疲れ様でしたー」
ロッカーの向こうから声をかけられ、おー、と返すと、
向こうもこっちが俺だと気づいたのだろう、全員バタバタといなくなった。



すぐにまた戻るとジヘに言ったにも関わらず、仙台になかなか帰れなかった。
ジヘとは連絡を取り合っていたが、父は資金繰りに四苦八苦しているようだし、
支店の営業はまだ再開できていないという。
そんなところに俺が戻ってもたいした手伝いはできないだろう、というのがまず一つ。
そして俺の中でプロダンサーになりたいという夢がにわかに現実味を帯びてきたせいでもある。

まずはスマンさんに言われた通り、サイトから大会の参加申し込みをした。
紹介者の名前を書く欄があり、スマンさんの名前を記入する。
紹介者がいない場合は、ビデオ審査で予選を通過しなければ参加できないという、絞り込みの厳しい規定だった。
あと半年で何通りもの振り付けを考え、完璧に踊れるように練習しないといけない。
俺に残されている時間はあまりにも少なかった。


ジェジュンの就活は、端から見ていても気が滅入るような散々な結果だった。
60社以上にエントリーして、そのうちエントリーシートを提出したのは40社近い。
これは平均以上の数をこなせばどこかしらに受かるだろうという、
下手な鉄砲も数打ちゃ当たるを地でいく作戦だったが、
そのうち面接までこぎ着けたのはわずか5社。内定は0だった。
周りがどんどん内々定や内定が決まっていく中でこの結果はきつい。
本人の焦燥感はつのるばかりで、夜もあまり眠れないのか顔つきまで変わってきた。
かといって俺が支えてやれるような問題でもない。

いや、たった一度冗談めかして「俺が養う」と言ったことがあった。
ジェジュンはいたく誇りを傷つけられたようで、怒鳴り合いの喧嘩に発展してしまった。

「ユノはいいよ、ダンサーになれなくたっていざとなったら実家を継げばいいだけだもんね、そりゃ気楽だよね」
その言葉にカチンときて、俺もきつく返してしまった。
「継げばいいだけとかそんな簡単な話じゃねーよ。
お前はさ、やりたいこともわからないくせに変にこだわりすぎるんだよ。
俺が担当だってそんなやつ採用したくないね。
この際適性なんか無視して、今からでも面接受け付けてくれるところ探すしかないだろ。
もうマジで選択肢ねぇよ。それを俺に当たり散らしてどうすんだよ」
「うるっさい! お前こそバカみたいな夢見てんじゃねーよ、ダンサーなんか絶対なれないに決まってんだろ! 
それで俺を養うだ? YouTubeで稼いでか? マジで、バッカじゃねぇの!」
ジェジュンは床を鳴らして寝室に消えたと思ったら、バッグに着替えを突っ込みながら出てきた。
「俺しばらくここには戻んない。お前の顔見たくないから」
「ちょっと待てよ」
俺はその腕を強く掴んだ。
「どこ行くつもりだよ?」
「お前に教える義理ないし」
「まさかシムチャンミンのところか」
「そうやって俺のこと遠回しに責めるくらいなら殴れば?」
「は? 責めてねーし」
「じゃあなんでチャンミンの名前出してくんだよ。お前がいつまでも気にして、忘れてないからだろ!!」
言葉に詰まった。
ジェジュンは見開いた目に涙を溜めて、向こうを向いた。
「もうやだ……もうこんなのやだ」
「ジェジュン…」
掴んだ腕を振りほどかれる。
「ユノと別れたい……。俺がいない間に出てってよ」

別れを切り出されたのはその時が最初。
それからは些細な喧嘩でも、その度ジェジュンは別れを口にするようになった。
















*時系列少し整理して書き直しました。ダンス大会はジェジュンが大学四年の10月、
 ジェジュンがYouTubeで動画を見たのはその半年後になります*

繋がれた舟 1




 がれた舟



 ダウンロード (2)



瓦礫だらけの街を抜け、俺は海を見下ろす高台へ登った。
東京の生活に慣れきった身体に、三月の東北の凍えるような寒さがこたえた。
かつて漁師をしていた祖父は、よく肩車で俺をこの場所まで連れてきてくれた。
祖父は数年前に他界したが、この惨状を見なくて済んだのは幸いだったかもしれない。
自分の愛した街が一瞬にして津波で失われてしまったのだから。

けれど、津波の恐ろしさを祖父は身をもって知っていた。
祖父が漁師をやめるきっかけになったのもまた津波だったからだ。

俺は沖に停泊している何艘かの漁船を眺めた。
真昼の強い光を波がきらきらと弾いている。
なにごともなかったかのように、穏やかに広がる凪の海。
三週間前、黒い小山となり街を襲い、すべてを破壊したなど嘘のようだ。

祖父に聞かせられた舟の話を思い出していた。

「ユンホ、津波が来るときはな、舟のもやいを解いてやらにゃならんのよ」
「じいちゃん、もやいって何だ?」
「舟を繋ぐ縄だ。舟はな~、沖に出しておけばフワリと波に乗るのよ。
じいちゃんは繋いだまんまにしたもんだから、港で木っ端みじんのばらばらになってさ」
「舟がなくなっちゃったから、じいちゃんは牛タン屋になったの?」
「んだよ」
筋張った武骨な手が、俺の頭を撫でた。

祖父母が始めた牛タンの専門店【たん活亭】は、
自宅に併設されていた本店が津波で全壊。
父の代で築き上げた仙台市内に12店舗ある支店は幸い被害を免れたけれど、
物流が寸断され、電気やガスなどの復旧の見通しも立たないため、
営業再開は当分先になるだろう。
いま父は店のため、そして従業員のための金策に、昼夜駆けずり回っている。

大学が春休みの間だけでもここで父の助けになりたかったが、
あいにく俺は俺で、自分のことで手一杯だった。
それに、事業を拡大することに取り憑かれて、
ろくに家庭を顧みることもなかった父のために、
自分の生活を犠牲にするつもりも毛頭なかった。


昨年の12月、あの悪夢のようなスノボ合宿から、
俺とジェジュンの間はうまくいっていない。

恋人の浮気現場を見てしまった俺と、見られてしまったジェジュン。
立場が逆だったら案外違っていた気もするが、
男の経験が俺しかなかったジェジュンにとって、
酔っていたとはいえ、違う男をその身に受け入れたということは、
相当の呵責を感じる出来事だったらしい。
性的なアイデンティティという意味においても。

「なんであんなことになったのか本当にわからないんだ」
涙を流して、ジェジュンは幾度も俺に謝った。
「部屋を間違えて、チャンミンのベッドに潜り込んで……
誘ったのは俺の方だったって、っ、だけど」
「ジェジュン、別に俺は……お前がチャンミンに惹かれたなんて疑っちゃいないし、
酔った上でのただ一度の過ちで、別れようとも思わない」
「ごめん、ごめんなさい……ユノ、ごめん…っ」
「だから、もう謝らなくていいって」
そう言ってはみるものの、ジェジュンはあれ以来、
俺と身体を重ねるのを恐れるようになった。
まるで最初のころのように。

どれほど丁寧に時間をかけて愛撫しても、
ジェジュンが以前と同じように快感を拾えていないのはわかっていたし、
セックスの回数は誤魔化しようもなく減っていた。
罪悪感でナーバスになっているのだろう、俺はそう思っていた。
いずれ時間が解決してくれるはずだと。

「お兄ちゃん!」
後ろから妹のジヘに呼ばれた。
「おお、どうした」
「悩み多き青年よ、海見て黄昏れてんの? 真っ昼間だけど」
「ばか」
「さっき避難所でさ、ボランティアの人たちが集めた写真の返却会やっててさ」
ジヘの手には、色あせ、破れかけた写真があった。
「ほらこれ、見つけてきた」
「たったそれだけか?」
「一枚見つかっただけでもありがたいでしょ」
差し出された写真は、本店をバックに撮った古い家族写真だった。
祖父に肩車された俺、若い両親、そして泣きべそジヘ。
「ジヘヤ、これ兄ちゃんがもらってもいいか?」
たった一枚戻った写真。
「い~よ。もう東京帰るんだっちゃ?」
「んだな」
「またすぐ来るっちゃ?」
「んー…」
今回、父とはすれ違いであまり顔を合わせる機会がなかった。
次に来たときには抜き差しならない話をされそうだ、と思った。



ルームシェアをしているアパートに戻ったのは午後遅くだった。
「おかえり~」
俺の足音で玄関の鍵を開けたジェジュンが、ぴょこりと顔を覗かせた。
頭のてっぺんを小学生の女の子みたいに結わえているのが可愛くて、そこを引っ張った。
「ただいまチョンマゲ~」
「やっめてよ」
そう言いながらあまり嫌がっていないことはわかっている。
「留守中なんかあった?」
「なんもない。ずっと自己分析やってエントリーシート書いてた」
「お~素晴らしい」
就活のスタートが遅かったとジェジュンは焦っているけれど、
まぁ平均的な進み具合なんじゃないかな、と俺は思う。
が、ジェジュンはそもそも何がやりたいかがわからない、という。

「ユノは実家どうだった? 津波で浸水したんだろ?」
「大丈夫」
「あ~じゃぁ良かったね。実家、レストランだっけ?」
「写真見る?」
例の写真を引っ張り出して見せると、ジェジュンは目を寄せて眺めた。
「とんかつ?」
屋根看板の文字は旧字体で、【た】が【と】に見えなくもない。
俺はぷっと吹き出した。
仙台でたん活亭と言えばそれなりに有名な店だが、
そういえばジェジュンに話したことはなかったな、と思う。

「そっか、ユノの実家はとんかつ屋かぁ」
勘違いはそのままにしておいて、俺はジェジュンを腕に抱き寄せた。
「う~ユノなんか臭い~」
ああシャワーを浴びないとな、と名残惜しく身を離す。
「ちょっと寝不足だから昼寝したい」
「こんな時間に寝たら夜眠れなくなるぞ」
「くたくただから平気」
人がすし詰めの避難所や車中泊ばかりだったから、さすがに疲れが溜まっていた。
「んじゃ、洗濯機回すの後にしよ」
「一緒に寝よう」
「やだよ」
「俺が寝るまででいいから付き合ってよ」
「仕方ないなぁ」
一週間ぶりだからか、ジェジュンも俺に甘くなっている。

シャワーを浴びて部屋着に着替え、ベッドに引きずり込んだジェジュンを後ろから抱いた。
チョンマゲをほどき、さらさらとした髪の手触りを楽しむ。
肩口に顔を埋めると、ジェジュンの優しい匂いがして、下腹がきゅうっとなった。
そのまま柔らかな双丘に下半身を押しつける。
「ユノ…」
俺の変化に気づいたのか、ジェジュンの声が尖る。
「何もしない。ちょっと挟むだけ」
「もぉ…」
本当はセックスしたいなと思ったけれど、
ジェジュンの体温が心地よくてあっという間に眠りに落ちた。


目が覚めた時、部屋は暗くジェジュンは隣にいなかった。
台所から料理をする音がしていた。
床で何かが音もなく光っては消える。
ジェジュンのスマートフォンだ。
ベッドから出てしゃがんで覗き込むと、
ロック画面に通知されているのはラインだった。
誰かが引っ切りなしにメッセージを送ってきているようだ。
ジェジュンに教えてやろうとスマホを手にして、
表示された相手の名前に固まった。

【沈:会いたいです】

──シムチャンミン。










別の人の彼女になったよ 8




電車内のドア付近に立って、俺は手の中の一枚の写真を見つめていた。
この写真は、きっとユノにとって特別なのだと思う。
実家のとんかつ屋を背景に、祖父に肩車をされた幼いユノと、両親と、小さな妹が写った写真。
ユノの荷物をまとめていた時に、気に入って読んでいた詩集のページに挟み込まれているのを見つけた。

ひどく色があせて破れかけた写真を、俺は大切に手帳のポケットにしまった。

車掌が目的の駅名をアナウンスし、俺はドア横の開ボタンを押して電車から降りた。
海の匂いがした。
三両編成の電車が遠ざかるのを見送ると、ゆっくりと歩き出した。
仙台駅に比べると、ずいぶんこぢんまりとした駅だ。
ホームから眺める街並みには緑が多く、住宅地の向こうに遠く連なる山並みが見えた。
五月でも山頂に雪を抱いている。蔵王連峰だろうか。
改札を抜け、気合いを入れるようにふっと口から息を吐いて、
もうすっかり覚えた地図の通りに、海側の住宅地へと向かう。


ところが、15分も歩かないうちに俺は足を止めた。
駅から続く道路が無くなっていたからだ。

代わりに現れたのは、ダンプカーが砂塵を巻き上げ忙しなく行き来する泥の道。
大きな音を立てる物々しい重機と、いたる所に積まれた、見上げるほど大きな砂の山だった。
赤茶けた景色の中、立ち入り禁止を示す看板と赤い三角コーンが、うねった泥の道沿いに続いている。
辺りに住宅は一戸も見当たらなかった。
おそらくその先は海なのだろう、突き当たりには、
半分ほどをコンクリートのブロックで覆われた巨大な堤防が立ち塞がっていた。

ドドドと歯が痛くなるような音がして、俺は思わず両手で耳を覆った。
潮を含んだ風が吹く度、細かな砂が吹き付けてくる。
どこからかヘルメット姿の作業員がやって来て、立ち去るようにと言われる。
工事の音のせいか方言のせいか、怒鳴られたように感じて何も訊けずに来た道を戻った。

駅の反対側の商店街まで戻り、通りかかった買い物途中らしき女性に訊いてみる。
「あのすみません」
「はい?」
「あの……東方三丁目に住んでいた知人を訪ねてきたんですけど、何も無くなっていて」
「あ~、三丁目だと津波もろかぶりだったからね。あそこはかさ上げ工事してんだよね、ずっと」
「そうすると、住民の方は」
「避難所からはもう移ってんだろうけど。仮設さ入ってんじゃないかな」
「仮設住宅、ですか?」
「んだ~、この辺だと南東方小学校の校庭かな。んだけっど、みんなばらばらになったっていうから、
もしかすっと市の借り上げアパートかも知んないし。かさ上げ終わっても、ここさ帰ってくんのかな」
所々聞き取りづらかったけれど、
どうやら住民はそれぞれ別の仮設住宅や借り上げアパートに仮住まいをしているということらしい。

「あの……津波の被害って、相当ひどかったんですか」
「ひどいなんてもんじゃねっちゃ~。この辺は田んぼばっかで平地だったから。
有料道路が堤防代わりになったとこもあったけど、ほとんど水浸し。
家も全部半壊だの全壊だのになったんだっちゃ。何あんた、東京の人?」
「はい。あの……三丁目のこのとんかつ屋は、どこかに移転したとか、聞いてないですか」
一縷の望みをかけて手帳の写真を見せようとすると、女性は手を振って言った。
「なんもわかんねっちゃ~」
「ありがとうございました」

その後も、数人の通行人に尋ねてみたけれど、答えはどれも似たようなものだった。
中には親切に店名を尋ねてくれる人もいた。
「とんかつ屋? なんつー店?」
「あ、この写真の店なんですけど」
「どれ」
写真の屋根看板は、ユノの陰になり最後の一文字が隠れていた。
「そのまま屋号の屋で【とんかつ屋】だと思うんですけど。もしかすると、違う漢字かもしれません」
「そんな変な名前のとんかつの店、しらねーな」
「そうですか……どうも、ありがとうございました」

俺は住宅地の公園のベンチに座り込んだ。
一年数ヵ月前、ユノのふるさとが、街並みが消失してしまうほどの津波被害にあっていたなんて──
ユノからそんなことは一言も聞かなかった。
ううん、訊いても大丈夫だとしか言わなかった。
ユノのことだ、俺が自分のことで手一杯になっていたから、
少しでも負担にならないようにと、口にしなかったに違いない。

ユノが大変な時に、俺はそばで支えることもせず、
ただの一度だって、手伝いに行くとも言わなかった。
情けなくて、涙がこみ上げてくる。
俺は一体ユノの何を見てきたんだろう。
これで彼を愛してるなどと言えるだろうか。

俺はユノの実家の電話番号を表示させたスマホを握りしめた。
もしここへ来て実家が見つけられなかったら、
当然のようにまた電話をかけるつもりでいた。
でももうそんな気は消し飛んでいた。
深く自分を恥じていた。
仮にもユノが結婚の話まで持ち出していた相手が、
こんなにも無知で薄情者だということが、恥ずかしくてたまらなかった。



それから今更ではあるけれど、休みの度にボランティア活動に出かけるようになった。
ユノの実家があった沿岸地域を拠点としているボランティア団体に所属し、
田畑や河川のがれき除去、救援物資の仕分け作業、草刈りなどの力仕事といった活動に参加した。
汗にまみれ、泥だらけになって作業に没頭している間だけ、ユノのことを忘れられた。
被災者の引っ越しの手伝いや、ふれあい交流活動などへも参加し、
その場に集まった住民にユノの実家のことを訊いてみたりもしたけれど、誰もその行方を知らなかった。
そうして二ヶ月が過ぎた。



その日会社帰りに、ついに牛タンの専門店たん活亭へやって来た。
店内は平日でもほぼ満席で、特に女性客が多かった。
インテリアの雰囲気や運ばれてくる料理の皿がどれも凝っていて、
なるほど女性をメインターゲットにした店なのだな、と納得する。
牛タンも薄目のものを花のように盛り付けていて、
付け合わせにはチコリーやルッコラ、ミニトマトなどの生野菜が多めに添えられていた。
「うっまそ」
俺は学生時代からほとんど自炊してきたけれど、
やはりたまの外食は心浮き立つものがある。
一人で焼き肉というのはなんとなく勇気が試される行為だが、
この店の雰囲気のおかげか、はたまた造りのせいか、
ゆったりと落ち着いて味わうことができた。

「どうもごちそうさまでした」
会計の際に伝えると、笑顔の店員が次回使えるクーポンをくれた。

店を出たところでそれを手帳に挟んでいると、
店内からスーツ姿の男が4,5人連れ立って出てきた。
そのうちの一人が見送りの店員と会話している後ろ姿に、俺の目は吸い寄せられた。

男が目をひくほどの長身である、ということもあったが、
何よりその筋肉質な背中が、俺のよく見知ったものだったから。
でも髪型は全然違う。ずいぶんと短い。
それに、仕立ての良いスーツを着こなしている。
でも──

ドクン、と心臓が跳ねた。
振り返ったその顔。上司らしき男に向けた笑み。

「──ユノッ!」
俺の声に、その場にいた全員が振り返った。
「あ……」
俺は片手で口を押さえた。
じゃないと何かが口から飛び出してきてしまいそうだった。
悲鳴とか、心臓だとか、そんなものが。

ユノも驚きに目を見張った。
「ジェジュン……」

何度も夢想してきた偶然の再会。
俺の想像では、それはいつでも俺たち二人きりの状況で、
まさかこんなに外野がいるなんて思ってもみなかった。
ましてやユノの仕事関係の人間など。

通行人の視線がちらちらと投げかけられる。
俺は口の端を持ち上げ、小さく手も上げた。
懐かしい友人に偶然出会った、ただそれだけなんだというように。

「久しぶりだね、ユノ。髪が短いからビックリした」
ユノが俺に歩み寄り、ぎこちなく尋ねた。
「どうしてこんなところにいるの?」
「本当に偶然だね、俺、春から仙台で働いてるんだよ」

二人の会話に耳をそばだてられているようで落ち着かない。
俺の言葉は不自然じゃないだろうか。

「あのさ、ユノの携帯の番号、良かったら教えて」
これ以上、この場で多くを話さない方がいいだろう。
俺は忙しなく手帳のページをめくる。

その時、あの写真がポケットから落ちた。
ユノがかがんでそれを拾う。
俺の大好きなユノの手は相変わらず綺麗で、
懐かしさに胸が張り裂けそうになった。

「……この写真…」
ユノが驚いたように俺を見た。
「あ……うん」
頷くと、ユノの目が柔らかく弧を描いた。
笑った。
ユノが笑ってくれた。
思わず泣きそうになり、慌ててうつむくとペンを差し出した。

ユノが携帯の番号を丁寧に書いた。
それからわずかに顔を寄せ、
「電話、待ってる」
俺にだけ聞こえるように告げられた言葉に、胸の中にかっと熱が広がる。
それは喜びとともに全身を駆け巡り、俺の脳みそをぐちゃぐちゃに溶かしてしまった。

気づいたら、俺は一人で立ち尽くしていた。
今の出来事はすべて夢なんじゃないかと思ったけれど、
手帳にはユノの番号がちゃんと残っている。
「ユノ…」
すぐにも電話をしたい気持ちを抑えて、手帳を胸に抱きしめた。


電話をしたら、まず何と言おう。
俺、別の人とじゃ駄目だったよ。
どうしてもユノのことが忘れられなかった。

いや、最初はごめんなさいを言おう。
それから……

ユノが好きだよ。
やり直せるかな、俺たち。
ユノと、やり直したいんだ。


顔を上げると、深い藍色の空に明るい星が輝いている。
俺は手帳を鞄にしまうと、大きく歩を踏み出した。














 了







別の人の彼女になったよ 7




「失礼」
一瞬で冷静さを取り戻したチャンミンは、片手を上げて謝った。
それからフォークを取り、前菜のマリネの蛸に突き刺した。
「ゆっくり味わいましょうか。これが最後の夜になるなら、楽しまないとね」
静かな声だった。
「それにしても、ついこの間まで本社勤務になりたいって言っていたのに。ユノ先輩から電話でも来たんですか?」
「いや…」
俺もマリネを口に運ぶ。
甘いのか酸っぱいのかもよくわからなかった。
「……チャンミンと別れたいです」
「僕は別れたくない」
「テミンから聞いたの。追い出し合宿の話」
「だから?」
「偶然だけど、ユノが怪我したことも知って、自分の気持ちがわかったの」
「やっぱりユノが好き、ですか。気づくの遅すぎません?」
「俺は、チャンミンみたいに頭も良くないし、何でもすぐには決められないから」
「でも僕と付き合ったのはあなたの意思だ。ユノ先輩を捨てたのもね。
怪我に同情する気持ちはわかりますが、連絡も取れないのに押しかけてどうするんです。
本人仙台にいないかもしれませんよ?」
「チャンミン」
「いたとしても他に恋人がいるかもしれないし、迷惑に思うかもしれないじゃないですか。
あなたの独り相撲かもしれないんですよ。そういうことは考えないんですか」
「……。」
「まぁ考えないからできるんでしょうけど。僕には理解できないな。
いいですよ、僕との付き合いは保留にしておいて」
「そんな……」
「ユノ先輩に会ったら、やっぱり僕の方が良かったって思うかもしれないでしょ。
あなたは何でもすぐには決められないし、頭が悪いんだから」
あ、と思ったときにはもう遅くて、ポロリと零れた涙を見られた。
俺は慌てて目を擦る。
ため息が聞こえた。
「会計してきますね」
席を立つチャンミンを視線で追う。
このまま中途半端に話を終わらせるのは嫌だ。
きちんとけじめをつけてから仙台に発ちたい。

戻ってきたチャンミンの手にはカードキーがあった。
「部屋を取りました。行きましょう」
「でも…」
「何もしませんからご心配なく。外で男同士の別れ話なんかしたくないだけです」



部屋のドアを閉めた途端、チャンミンに腕を取られた。
「ちゃんみっ…」
そのまま短い廊下を引きずられ、ベッドに突き飛ばされる。
部屋はベッドと椅子だけでいっぱいになるほど狭いシングルルームだった。
「なに、」
すぐに身体に乗り上げられ腕を押さえ込まれた。
「本当に学ばない人ですね」
「チャンミン?」
俺の上でニヤリと笑ったチャンミンが、無理矢理口づけてくる。
「ん…むーッ」
顔をそらして拒むと、すごい力で顎を掴まれた。
「何もしないって、っ!」
「最後にもう一度くらいやったってどうってことないでしょ」
「待って…!」
身を捩り、なんとか逃れようともがく。
チャンミンが俺のシャツをたくし上げ、ベルトを引き抜いた。
「こういうのもなかなか興奮するなぁ」
はだけられた胸にチャンミンの舌が這い、乳首を噛まれた。
「いやっ」
拳がチャンミンのこめかみを打ち、チャンミンが呻った。
「あ…ごめ……」
チャンミンはこめかみを押さえて顔をしかめた後、
起き上がった俺のボトムを両手で掴んだ。
「な──」
ベッドから這い出ようとした俺の尻がむき出しになる。
握ったシーツごと引きずり戻され、チャンミンの指が愛撫もなしに後孔に突き立てられた。
「やぁっ!」
焼けるような痛みに涙が溢れた。
「やめて──やだ、ユノ、ユノッ」
「ははは、またユノ先輩か! 呼んだって来るわけないじゃないですか」
「ん、んッ、チャンミンやめてぇっ」
「往生際が悪いな、さっさと諦めた方が楽ですよ」
グッと背中を膝で圧される。
「ぐ…」
指が増やされ、激しく出し入れされて吐きそうになった。
はぁはぁと荒いチャンミンの息がうなじにかかる。
背後でチャンミンがファスナーを下ろす音がした。

「ッ……嫌だっ!!」
肘を思い切り後ろに引いた。
ガツッとチャンミンの顔に肘が当たり、じんじんと痺れた。
「、この……」
チャンミンが俺から離れ、鼻を押さえる。
必死に距離を取ろうとして、俺はベッドから転げ落ちた。
すぐに立って壁まで離れると、震える手で乱れた服を元に戻した。
「ああまったく」
チャンミンが手を外すと、赤い血の色が見えた。
「どうしてこんなにも腹が立つのか」
ずずっと鼻をすすり、チャンミンは片方の鼻孔を押さえたまま上を向いた。
「俺たち、終わりだよ、チャンミン」
俺の言葉に、チャンミンは低く笑った。
「そうですね。こんな惨めな思いをさせられるのはもうごめんです。
よくわかりました。あなたは僕といても、いつだってユノ先輩のことばかり考えてるんだって」
咄嗟に否定できなかった。
気づいて、いたのか。

「僕を好きでした?」
「……好きだったよ。チャンミンは、違ったみたいだけど」
チャンミンは枕元のティッシュを取ると、鼻に押し当てた。
「僕はゲイじゃない」
くぐもった声が答えた。
「うん……そうだね」
俺は頬の涙をシャツで拭いた。
本当はお互いに、もっと違うことを言いたいのだと思ったけれど、
それを打ち明けたところでどうにもならないのはわかりきっていた。

「大丈夫だよ。チャンミンは」
道を踏み外してなんかいない。ほんのちょっと寄り道をしただけ。
チャンミンの足元には、輝かしい未来へつながる道が伸びている。
そしてその道は、ついに俺の道と交わることはなかった。
「……さよなら」
チャンミンが言った。

俺も同じ言葉を返した。




東京から新幹線でわずか一時間半、
ユノの地元であり俺の配属先である仙台は、杜の都と謳われる緑豊かな地方中枢都市だ。

ようやく気持ちに余裕が出てきた休みの日、
不動産屋からの帰りにアーケード街をぶらぶらしてから、
少し早めの昼食を、と、仙台駅の構内にある和食レストランに入った。
東京のアパートは6月いっぱいまで契約が残っているので、
仙台では社員寮に住みながら、のんびりと物件巡りをしていた。
落ち着き先が決まったら、軽トラでも借りて自力で引っ越しをするつもりだった。
一人じゃ運べない大型の家電製品は、この際だから新しいものに買い換えようかと思っている。
地元民らしい隣席のカップルが牛タン定食を頼んでいたので俺も同じものを頼んだ。
手帳を取り出して、これから訪ねようとしている住所を確認する。
在来線に乗り換えて八つ先の駅だ。そこから海に向かって徒歩で20分ほどで、
ユノの実家に着くはずだ。

もしユノが戻っているのなら、会えるだろうか。
ユノがいなくても、直接訪ねれば連絡先を教えてもらえないだろうか。
ユノのお父さんと対峙して、自分の気持ちを伝えることができれば。
何度も想像してきたはずなのに、いざ実行に移すとなると緊張してくる。

ゴムのような歯触りの肉を噛みしめ、ブツブツと独り言を言った。
旨い不味いは別として、仙台名物、残りは萩の月で制覇だな……。
「やっぱり牛タンは専門店のがおいしいよなぁ」
「ここのいまいちだね」
カップルの会話が耳に入る。
「味の美助かたんや本舗の二択だな」
「あたしはたん活亭も好きよ」
そんなにたくさんあるのか。
次はちゃんと調べて、美味しい店に行ってみようかな、などと思う。
それは、ユノだけを目的としてこの街に来たわけではなく、
俺自身が、ここでの生活を楽しみながら暮らしたいから。

俺は決めていた。
もしユノが実家に戻っていなくても、
この街にいれば、出会う確率は0%じゃない。
俺の職場である本屋は、仙台駅と地下鉄をつなぐ地下街にある。
昼夜を問わず人通りも多く、仙台で地下鉄を利用するなら必ず通る場所でもある。

だからきっといつか、俺はユノを見つけ出せる。
きっともう一度ユノに出会える。









別の人の彼女になったよ 6




夜中ユノのことを考えた。
枕を抱きしめて暗い天井を見上げていると、次々と思い浮かぶのはユノのことばかりだった。

何気ないユノの口癖。俺を見つめる眼差し。大好きだった匂い。
いつも俺を包み込むように抱いていた長い手足。
ダンスをする時の真剣な顔は、セックスしている時の顔と少しだけ似ていた。
真面目だけどお調子者、のらくらしてるかと思うと、とんでもない集中力で突き進む。
こちらが呆気に取られるようなことをしでかしても、
後から理由を聞くとユノなりに筋が通っていることが多かった。
でも、事前には相談してくれないことがほとんど。
だからときどき、置いて行かれたような気持ちになった。

言い訳や、取り繕うようなことはかっこ悪いと思っていた。
自分には厳しいけど、人には優しかった。
裏表がなくて、いつだってありのままを見せてくれた。
怒りや暗い感情を吐き出すのは俺の前でだけ。
ふいに見せる弱さや、激しい欲望をぶつけられると、その人間くささにほっとした。

いつだってユノの存在が、俺を安心させてくれた。



思い出すと、また涙が流れる。
もう俺の涙腺はおかしくなってしまったみたいだった。
腕を曲げ、顔を覆った。
「ユノ……」

近くなりすぎて、当たり前になりすぎて、気づけなかった様々なことがある。
誰かと比較するんじゃなくて、善し悪しではなくて、ただユノを想った。
それはとりもなおさず、逃げ続けていた自分の気持ちと向き合う時間だった。
長すぎる夜。

十八歳で出会って、一緒に暮らし始めた頃の気持ち。
十九歳で初めて自分の性的なアイデンティティを疑ったこと。
二十歳でおそるおそるユノと重ねた身体と、心の痛み。

自分たちは普通じゃないという負い目を、
俺たちは特別なんだと強がることで誤魔化した。
サークル内で公認のカップル扱いされるほどに。

大多数の性的マイノリティは、それが後ろめたいからカミングアウトしないんじゃない。
当たり前の話だけど、カミングアウトしてしまったらする前には戻れないから。

他人が一度かけてしまった色眼鏡を外すことがどれほど難しいか、
俺たちは知らなかったし、若者らしい勢いと愚かさで軽く考えていたのも確かだ。
自ら下世話な好奇心の餌になるなんて、今だったら決してしないのに……。
その結果起きたことが、チャンミンのような、それともあの後輩のような、
ゲテモノに興味を持つ人間を惹きつけるだけの結果だったんだとしたら、
一体俺たちは誰から、何を守ろうとしていたのか。


寝返りを打って、枕に顔を押しつけた。
チャンミンのことは、まだ考えたくない。
俺はそうやってまた、苦しい現実から逃げるのか。
「ふっ……」
ますます涙が止まらなくなる。

誰の前でも堂々としていたかった。
ごく普通のカップルのように認められたかった。
手を繋いでキャンパスを歩きたかった。

俺はゲイだから男を好きになったんじゃなくて、
男を好きになったからゲイなのでもなくて、
たまたまキムジェジュンが、ただチョンユノを好きになった。
それを他人に認めてもらう必要なんてなかった。
自分に許す必要なんて……もっとなかった。




普段通りに出勤する。
すし詰めの電車に揺られ、灰色のビルの中を歩く。
そこそこ名の知れた企業で、そこそこの給料で我武者羅に働く。
夢や希望なんて、面接の時に話したくらいで、
今それを口にすれば「若いねぇ」と揶揄されるか、
「いつまで学生気分でいるんだ」と叱責されて終わり。
新しい環境に適応するだけで精一杯の毎日。
そのうち自分でも、自分が本当にやりたかったことなんて忘れてしまう。
それが大人になるということなのだろう。
社会を回す歯車の一つになって、きしみながら、すり切れながら動き続ける。




久しぶりにチャンミンに会った。
待ち合わせは都心のホテルの最上階のレストランだった。
きらめく夜景を眼下に、シャンパングラスを合わせた。

「こんなところに来ること、もうないんだろうなぁ」
誰にともなく呟いて、淡い黄色の酒を喉に流し込む。
「今度は泊まりに来ましょうよ」
なんて、俺を喜ばせるようなセリフを言うチャンミンは、やっぱりスマートでかっこ良かったけれど。

「ううん、もう来ない」
俺は潤む夜景を目に言った。
「僕、なにかしましたか」
そっと俺の手にチャンミンが触れる。
不安げに陰る表情に、ああ、少しは俺を好きでいてくれたのかなぁなんて思う。

「チャンミンに、夢の話って聞いたことあったかな?」
俺の問いに、ほっとしたようにチャンミンは手を引いた。

そういえば、付き合ってもうずいぶん経つのにチャンミンの夢を知らなかった。
だってそんな話になると、チャンミンはさりげなく話題を変えてしまったから。

「う~ん……僕はあんまりそういうことを、はっきりと形にならないうちから口にするのは」
「嫌い?」
「ですね」
「どうして? 口にしちゃうと、叶わない気がするから?」
「いえ。僕の夢なんて口にするほど大それた夢じゃないし……
淡々と努力していれば、叶ってしかるべきとでもいうか」
「それでも聞きたかったのに」
チャンミンは手持ち無沙汰に首の後ろをかいた。
「大学は、たぶん大学院にはいきません。就職は僕が研究している分野では望めないので……
ただその研究内容を活かした就職活動ならできそうだと思ってるんです」
「そうなんだ。じゃあ今やっている研究はチャンミンにとって手段みたいなものなのかな」
「ええ、まぁ」
「就職は、首都圏で考えてるんでしょ?」
「都内がいいです。実家から30分以内だとベストですけどね」
ずいぶん現実的に考えているんだなぁと少しおかしくなった。

そうか。チャンミンの夢は、しっかり現実と地続きにつながる話なのだ。
足元を見て着実に進む。それは悪いことじゃない。
ただ、遠い星を探すようなことはしない。

「きっとチャンミンなら、都内の一流企業に就職できると思う。
仕事もバリバリこなすんだろうなぁって、想像つく。
実家から通ってちゃんと貯金もして……結婚は? いつごろするの?」
チャンミンは迷わなかった。
「本気で好きな相手が現れたら、いつとは言わずにしますね」
そこに俺の存在は最初からない。
「ジェジュンは? 何歳で結婚したいとかあるんですか」
「俺は……35歳くらい?」
「具体的ですね」
「だって、その頃になれば──」
「ん?」
「ううん、何でもない」
「そういえばそろそろ配属先が決まる頃じゃないですか?」
「うん。一週間前に希望を出した。俺、東北支社に配属されたよ」
「は……?」
強い感情がチャンミンの目の中に走る。
チャンミンの手がテーブルの上で握られた。
「まさか、仙台じゃないでしょうね」
ちょうど前菜が運ばれてきて、チャンミンは一瞬ウェイターに目をやり、すぐに俺に戻す。
「仙台の店舗だよ」
握った拳がテーブルを叩いた。

ガシャンと皿が鳴り、周囲の人の視線がこちらに向けられる。














別の人の彼女になったよ 5



それは高難易度の、ひねりを加えたバク宙を飛んだ時に起きた。

着地した左脚がぐにゃりと曲がったように見えて、俺は悲鳴を上げた。
ユノは続けて踊ろうとしたけれど、足をしっかり着くことができなくて、
変な倒れ方をしてうずくまった。
説明もなく場面が切り替わり、次の出場者の映像に変わった。

「…ユノ……」

ユノが怪我をした。
俺の瞼には、ユノの苦しげな顔が鮮明に焼き付いている。
ウィンドウを閉じた。
マウスを握る手が震えているのに気づき、俺は両手を揉みしだいた。

このままウェブやツイッターで、大会名とファイナリスト決勝戦、怪我、などと検索すれば、
きっとユノのことがヒットする。
けれど俺にはどうしてもそれができなかった。
怖くて、怖くて。

四方から押されるような息苦しさに、キンキンとした耳鳴りがする。
出ない唾を何度も飲んだ。

ユノが怪我をしたのは半年以上前だ。
俺は何も知らずに毎日を過ごしてきたし、怪我はもう良くなっているかもしれない。
本当に酷い怪我だったなら、さすがにテミンだって俺に教えてくれたはずだ。

そう自分に言い聞かせてみたものの、なんの慰めにもならなかった。
関節が白くなるほど硬く組み合わせた両手を見た。

ユノは試合の前にはいつも神様に祈っていた。
あの日だってきっと、真剣に十字を切って祈ったに違いないのに。
「なんで──」
俺はギュッと目を閉じた。

ユノの声を聞きたい。
ううん、もう声だけじゃ、電話だけじゃ駄目だ。
会って無事を確かめたい。
だけど、どうしていいかわからない。

「あ……」
その時、稲妻のように頭に閃いたのは賃貸借契約書の存在だった。
このアパートを借りるときに、確かユノの父親が連帯保証人になってくれた。
俺は書類関係が納められたチェストの引き出しを開けた。
いくつか入っていた書類ケースの奥に、目的のものを見つけてページをめくる。
思った通り、そこにはユノの実家の住所と電話番号が記されていた。

時計を見上げると、針は21時半を指している。
ギリギリ失礼に当たらない時間だと信じて、スマホの液晶ボタンを押した。
あれこれと考えている余裕はなかった。
何度か呼び出し音が鳴り、受話器の向こうから低い男性の声が響いた。
「もしもし、チョンです」
「夜分に恐れ入ります。私、ユンホさんの学友でルームシェアをさせていただいていたキムジェジュンと申しますが」
そこまで一気に言って、息を吸う。
「実はユンホさんに連絡が取れない状態です。新しい携帯の番号をお伺いできればと、お電話を差し上げたんですけれども」

いかにも詐欺だと疑われそうで、金のことは口にしなかった。
このご時世でそう簡単に番号を教えてもらえないことも容易に予想できる。

その時には正直にユノの怪我の具合を聞きたいのだと言おう。
どうしても連絡を取りたいのだと。

電話の向こうで沈黙が続き、それから襖を開け閉めするような音がした。
背後で鳴っていたテレビの音が遠ざかる。どうやら部屋を変えたようだった。
他の家族の耳を気にしているのだろう、潜められた声が言う。
「キムジェジュン君。きみのことはユノから聞いているよ。こうして直接話すことはないと思っていたがね」
「はい」
「私はユノの父親です。君には言いたいことがいくつもあったんだけれど、まずはっきりさせておこう。
ユノの電話番号を君に教えることはできない」
「そう、ですか」
「君もよくここに電話してこれたものだ。君のせいで私はユノを勘当したんだよ、知っていたかね?」
「え…?」
ふーっと、深いため息が聞こえた。

「やはり知らなかったんだね。ユノが大学四年生になった頃、突然私に電話を寄越してね。
将来はあなたと結婚したいから、自分が店を継ぐことは諦めてほしいと言われたんだよ」
俺は声を上げそうになり、片手で口を押さえた。
「し、知りませんでした、そんな──」
「私もね、ユノに理解がある親だと思われたくて、経営の勉強にもなるだろうと大学にも行かせたし、
あいつがやりたいことは自由にやらせてきた。
だがね、まさか同性と結婚したい、店は継がずにダンサーになりたいだなんて言われるとは思ってもみなかったよ。
悪い冗談だと思いたかった」
俺は何も言えずに、耳に押しつけていた携帯を浮かせた。
また耳鳴りがしていた。

「……大変申し訳ありませんでした。そんなことをお父さんに言っているとは、知らなかったものですから」
「そうかね。てっきり二人で決めたことだと思っていたよ」
意外そうに言った後、声がほんの少しだけ和らいだ。
「だが私はそんなことを言うユノが許せなくてね。大学の学費も生活費も一切送ることをやめたんだよ。
君と別れない内は金も送らないし、うちの敷居もまたがせないと言ってね」

くらりと眩暈に襲われ、俺は机に手をついてそろそろとしゃがんだ。
ユノは実家からの仕送りを絶たれ、学費さえも振り込んでもらえなかった。
それじゃあ俺が原因で大学を退学したようなものじゃないか。
それなのにアパートの家賃は払い続けていたユノ。
一体どこで暮らし、どうやってその金を稼いでいたのか……なぜ俺には何も話してくれなかったのか。

「僕は確かにユンホさんとお付き合いさせていただいておりました。
でも、大学四年の春には別れて、同居も解消していたんです。
だから、今更言っても仕方ないことですけど、ユンホさんを勘当する必要はなかったと思います」
「もうきっぱり別れたと言うのかね?」
「そうです。だから電話番号も知らないんです」
「では知る必要もなかろう」
そのまま電話を切られてしまうかと思った。
「お父さん! 僕は今日、ついさっき、ユノが脚を怪我したのを知って心配で、連絡が取りたくて…っ」
必死に呼びかけると、抑揚のない声が応えた。
「心配しなくてよろしい。息子は元気でやっている」
「ユノは今どこで、何をしているんですか? ダンスで生計を立てているんですか?」
「あいつはもう踊ることはできんよ」
その言葉から受けた衝撃があまりにも大きくて、身体が揺れた。
俺は膝を床に付けると、電話を両手で支えた。
そうしないと落としてしまいそうだった。

「もう切らせてもらうよ。君もユノのことは忘れて、君自身の人生を送りなさい」
「僕の口座にユノからずっと送金があるんです、もう送らなくていいから……
それに今までのお金も返したいんです、お願いですから、連絡先を教えて下さい!」
「悪いが、できないものはできない。
お金のことは銀行に掛け合ってみたらどうかね? 送金を止めて欲しいと言ってみたのかね? 
君から連絡があったなどと言えばユノは喜ぶだけだろうし、私からは何も伝えるつもりはない」
「そんな……」
「さようなら」

ぷつりと電話が切られた。
ユノにつながる糸が。

「…うぅ、…」
電話が手から滑り落ちる。
俺は床に顔を伏せ、拳を握りしめた。

「……ゆの」














別の人の彼女になったよ 4



その後輩からは何度かラインが来たけれど、肝心のユノの電話番号はわからずじまいだった。
ぐだぐだと埒が明かないラインのやり取りを苦痛に感じてきた頃、
その後輩ではなくテミン本人から、突然ラインが来た。

【お会いしてお話ししたいことがあります】

硬質な文面で日付と場所が指定されている。
【わかりました】
と返事をしてから、落ち着かない気持ちになった。
俺は指定された日時まで気もそぞろに過ごした。



当日、学生街の喫茶店の隅で俺はテミンと向き合った。

「あの、ラインありがとう」
「いえ……」
テミンは目の前のコーヒーには手をつけないまま、カップばかり眺めている。

ダンスが上手で、合同練習以外でもユノがよく会っていた後輩。
思い切ったように上げた顔が、俺と同じように中性的で、もしやという思いが胸をざわつかせた。
ユノが今つきあっているのは彼なんだろうか。

「僕、ユノ先輩の連絡先なら知ってます。でも、あなたには教えたくありません」

やっぱり、そうなのか。
息を吸うと肺に冷たい針が刺さったような気がした。

「そう。じゃあ、ユノの口座番号だけ教えてくれない? 借りてるお金を返したいの」
俺の言葉に、テミンの顔がさっと朱に染まる。
パシ、と乾いた音が響いた。
テミンが俺の頬を打ったのだ。
あまり痛くはなかった。
それよりも驚きが勝って、俺はおどおどと打たれた頬を押さえた。
「それだけですか!? あなた、ユノ先輩に対して謝るとかないんですか!」
「……謝る?」
たとえ俺が悪かったとはいえ、他人に二人の間にあったことをどうこう言われたくない。
それが恋人だったとしてもだ。

「あなたって隙だらけですよね。それともわざとなんですか?
部室にいたやつ…あなたがライン交換したあいつ、今度は俺の番かもって喜んでましたよ」
「テミン君の言ってることが、よくわからないんだけど……」
は、とテミンは口を曲げて笑った。
「だったらもっとわかりやすいこと教えてあげましょうか。
追い出し合宿の時、チャンミンさんに頼まれたんですよ。
あなたと二人きりになりたいから、ユノ先輩を押さえててくれって」
「…え?」
「チャンミンさん言ってましたよ。ゲイの性愛学の研究をしてるけどなかなか取材ができなくて進まない。
ハッテン場や出会い系は不潔な感じがして嫌だけど、あなたならいけそうな気がするって。
僕はあなたの危うさは魅力の一つではあると思うし、
もしかしてユノ先輩を惹きつけておくためなのかなって思ってましたけど、買いかぶりでしたね」
まくし立てられて、俺は言葉も出ない。
驚きに固まったまま、整ったテミンの顔立ちを見ていた。

「僕はずっとユノ先輩のことが好きでした。だからチャンミンさんに協力したんです。
ユノ先輩があなたと別れて、ルームシェアも解消したって聞いて喜んで告白したけど駄目でした。あなた以外駄目なんだそうです。
連絡先は死んでも教えません。それじゃあ失礼します」
一方的に言いつのると、テミンは席を立つ。
「待って!」
俺は慌ててその腕を取った。
「……どうして?」

泣き出しそうな顔をして、テミンは俺を振り払った。
「ユノ先輩が好きだから! もし、あなたが先輩のこと少しでも気にしてるなら、
先輩の望みを叶えてあげたいって思ったから。
でもお金だけならそんな必要ないですよね。先輩は受け取りませんよ」
「そう、そうだよね。でも、俺は……」
言葉が続かなくて、俺は前髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
「さよなら!」



それからどうやって電車に乗って、どうやってアパートに帰り着いたのか記憶が無い。

暗い洗面所で、俺は顔を洗った。

──ユノ先輩の望み…。
テミンの言葉が耳にこびりついている。

ノートパソコンを開く。
YouTubeを開き、検索窓にユノの名前を入れてみる。
何もヒットしなかった。
「……ユノ」
俺は机に肘をついて顔を覆った。
ポタリと、雫が落ちた。
顔を洗ったくらいじゃ駄目だ。
やたらめったら泣けてくる。
「うぅ…」
ユノと別れたときでさえ、こうは泣かなかったのに──。
涙の理由がわからなくて泣き笑いをした。

たぶん、テミンに聞いたチャンミンの話も少しは影響している。
俺ははなからチャンミンに体のいい取材対象として扱われていたのだ。
そう言われてみれば思い当たる節はいくらでもある。
だけどそれよりもずっと大きな痛みが、胸を押し潰そうとしてる。
「バカみたいだ」
どうして素直になれなかったんだろう。
テミンの言うとおり、金のことなんて言い訳だ。
ただユノに電話をしたかった。
声を聞きたかった。
「っ…」

俺が別れを切り出したわけを、ユノは知っていたかな。
……別れよう、だなんて言葉。
ユノから切り出されたら、俺は死んじゃったから。
それくらいなら俺から終わりにしたかったの。
だって、俺はずるいから。


ぐじぐじと泣いた後、腫れた瞼を細めて画面をぼーっと見る。
おすすめ動画が次々と再生されていく。

ああ、ユノの履歴が残っているのかなぁと思うと、消すに消せなくて動画を見続けた。
俺の心とおんなじだね。

ユノと別れてからもずっと俺の中にはユノが残っていて。
チャンミンといても、気づいたら二人を比べていた。
俺もチャンミンをどうこう言えない。
俺だって、そうやってチャンミンをないがしろにしていたんだ。


一時間も眺めていただろうか、何個目かの動画が流れはじめたとき、俺はハッと目を見開いた。
「ユノッ?」
一瞬だったけれど、見紛うことなどないユノが、体育館のような場所で観客を前にダンスを踊っていた。
「な、なんでっ」
まさか本当にプロダンサーになったの?
動画の詳細を見ると、それは俺も聞いたことがある有名なストリートダンス大会の予選の模様だった。
日付を見ると、半年ほど前に開催されていたらしい。

この大会で優勝することにより業界で名が通り、プロになったダンサーは数多くいる。
たとえ入賞だったとしても知名度が上がるのは確実だ。
俺はスピーカーのボリュームを上げた。
一二次予選はハイライト映像のみが流れ、
三次予選からは、出場者の簡単な紹介動画が差し挟まれる。
動画の中でユノは「U☆know」と紹介されていた。

三次予選も一人一分ほどの細切れの映像で終わった。
そしてついにファイナリスト決定戦へ。

勝ち残った出場者の名前が呼ばれ、一人ずつスポットライトに照らされていく。
その中に、堂々と立つユノの姿があった。
ここから映像はじっくりと一人ずつ映していく。
ユノのダンスが始まった。
音楽に合わせ踊るユノにカメラが寄り、はじけ飛ぶ汗がライトに光った。

ああ、ユノヤ。
すごいよ。お前、誰よりも輝いてるよ。

小学生みたいな夢だなんて言ってごめん。
お前はこうやって着々と、夢に向かって突き進んでいたんだね。

──がんばれ、がんばれ……

俺は爪が食い込むほど拳を握り、食い入るように動画を見つめた。










別の人の彼女になったよ 3




俺がユノと別れたのは、サークルの追い出しのスノボ合宿でしこたま酔った俺が、
チャンミンと浮気してしまったことがきっかけだった。

合宿参加者は30名ほど、スキー場に隣接するホテルで、
男女別に2人部屋を何室か借りて泊まっていたんだけど、俺が部屋を間違えたせいで……
気づいたら裸でチャンミンと抱き合っているのを、ユノが蒼白な顔で覗き込んでた。

それでもユノは別れようとは言わなかったし、チャンミンを怒りもしなかった。
むしろ、飲み過ぎると言動が危うくなる俺を知っていて目を離した自分を責めていた。
「俺は、ただ一度の心を伴わない浮気で、お前と別れようとは思わない」
泣きながら謝る俺に、ユノはそう言ってくれた。
だけど俺は……。
浮気、震災、就活。
たくさんの出来事が短期間に起こり、精神的に参っていたのかもしれない。
不採用続きだった就活は俺の自己肯定感を根こそぎ奪っていき、
周囲の仲間と自分を比べて落ち込み、将来の展望も描けずにいた。

俺は、そのイライラをユノにぶつけることで解消したのだと思う。
ユノとはある意味家族のように、距離が近くなりすぎていたのかもしれない。
自分のふがいなさを棚に上げて、就活に本腰を入れないユノを責めた。

怒鳴り合いの喧嘩が増え、一緒に暮らすアパートに帰らない日々が続いた。
このままでは駄目になってしまう、と何度か関係を修復しようとしたけれど、
ユノが語る夢も、将来の結婚の話さえも、全部が絵空事に思えてしまった時、
俺は自分から別れを切り出した。

ユノは首を縦に振らなかった。
ただ、お互いに冷却期間が必要だろうと言ってアパートを出て行った。
ユノの荷物はかなりの量が残されたまま、
毎月の家賃は、自動送金で振り込まれ続けた。

それはユノがいつかこのアパートに帰ってくるという意思表示に思える時もあり、
単に彼の責任感の強さを表わしているだけの気もした。

俺はその金をユノに返したいと思っていたけれど、
学部が違うせいもあってちっとも会う機会がなかった。
ユノが大学を中退したことは、ずいぶん経ってから知った。
慌てて送ったラインはいつまで経っても既読にならなかった。
そしてラインだけじゃなく、電話も不通になっていた。



一度身体を重ねてしまったことで、チャンミンを意識するようになった。
何度か呼び出されて会ううちに、チャンミンの優しさや頭の良さ、スマートさに強く惹かれていった。
俺にとってチャンミンは、ユノの欠点を裏返して美点に変えてしまったような男だった。

「始まり方はあんなでしたけど、本気であなたを好きになりました。
ユノ先輩とあなたのように、みんなに認められる関係にはなれないかもしれないけど、
僕なりにジェジュンさんを幸せにしたいんです。つきあってくれませんか」
子鹿のような黒くて丸い瞳で俺を見つめたチャンミンに、俺は頷いたんだ。



チャンミンとつきあって、もう10ヵ月になる。
いつかこの年月が、ユノとつきあった月日を超えていくのだろうか。
そう思うとなぜか切ない気持ちになる。
俺がこうして新しい恋人と過ごしているように、
ユノも誰かの【彼氏】になっていてほしい。
今度は俺みたいな男じゃなくて、ユノにふさわしい優しい女の子がいい。
楽しい毎日を過ごしていてほしい。そんな風に思う。



近々サークルの飲み会に参加してもいいかと訊いたら、チャンミンにすごく嫌な顔をされてしまった。

「なんで? OBとかけっこう顔出してたじゃん、なんで俺はだめなの」
「嫌なんですよ、だってあなた酔うと人前でベタベタしたがるでしょ」
「う……はい」
「ユノ先輩の知人も多いし、関係がバレるとやりづらいんです。
飲みたいなら二人でどこかお洒落なところに行きましょうよ」

そのユノ先輩の知人に会うのが目的だとはとても言えない。

「卒業してからもサークルに来るOBって嫌われますよ。
みんな年上だから言えないだけで、内心来ないでほしいって思ってるものですよ」
「俺はそんなこと思ったことないもん」
呆れたように、ハ、と息を吐かれた。
「この話はおしまいね」
「え~」
「ジェジュン。僕ね、心配なんですよ」
「なにが?」
「酔ったあなたを僕以外に見せることが」
「……。」
「自分の可愛さわかってます? 僕だって、あなたから迫られなきゃこうはならなかった」
チャンミンが目を細め、くしゃりと俺の髪を撫でた。
「そうなの?」
「自分の魅力に無頓着なあなたが好きですよ」
囁いた唇が寄せられ、深いキスをされた。
「…チャ、ンミ…っ」



サークル内でユノが仲良くしていた後輩たちは、他大学の数人だった気がする。
ダンスに情熱を注いで、熱心に練習していた子たち。
こんなことなら連絡先を交換しておけばよかったな、と思う。

仕方がないから、うろ覚えで彼らの通っているであろう大学をこっそり訪ねた。
学生のふりをして、サークルの部室が並ぶ学生会館をうろついた。
ストリートダンスと書かれた札の下がる部屋をのぞくと、
練習している十名ほどの部員の中に探していた顔を見つけた。
「こんにちは」
ぺこりと挨拶をしたら、相手は「あ!」と声を上げて、そそくさと立ち去ってしまった。
「え…」
唖然としていると、もう一人、見知った顔が俺のところへやって来た。

「ジェジュン先輩!」
「ごめんね、突然。久しぶりだね、元気してた?」
「はい、うわ~一年ぶりくらいっすかね。就職決まったって聞いて、おめでとうございます」
「ありがとう、なんとかもぐりこんだよ。それより、さっきのコ……俺、なにかしちゃったかな」
廊下の先に目をやったけれど、もうその姿はなかった。
「ああ、テミンのことなら気にしないで下さい。あいつユノ先輩にかわいがられてたんで」
それって、俺が悪者っていう扱いなのかなと苦笑する。

実際そうだろう。
一方的にユノを傷つけて、別れを切り出したんだから。

「で、今日はなんでわざわざ?」
「あ、あぁ…。んーと……もしかして、ユノの新しい連絡先とか知らないかなぁって」
「え?」
「ユノさ、俺とルームシェアしてたじゃん。それが、別れてからも家賃振り込まれてて、
ずっと返さなきゃって思ってたんだけど、番号変えちゃったみたいでつながらなくてさ」
「あ~。俺はわからないですね。でもテミンだったら知ってると思います、
あいつダンスのオーディション受けるんで先輩にアドバイスもらってましたから」
「そうなんだね。う~ん、でもさっきの様子見ると、俺には教えてくれなさそう」
苦笑してうつむくと、
「んじゃぁ俺が聞いてジェジュンさんに連絡しますよ!」と言ってくれる。

「まぁすぐには疑われると思うんで少し時間下さいね」
頷いて、ラインを交換して別れた。








別の人の彼女になったよ 2



珍しくチャンミンから映画に誘われた。

俺は話題になった映画は映画館で見ておきたい人間なので、
何度か流行の映画にチャンミンを誘ったんだけど、
チャンミンは単館系の映画が好きだとかで乗り気じゃなかった。

一度シネコンに一緒に行ったら、上映時間がほぼ同じだから
それぞれ違う映画を見ようなんて言われてビックリしたこともある。
結局その時はチャンミンの見たがっていた映画を見た。
B級のホラー映画だった。
俺にはあまりその良さが理解できなかったけれど、
あとでヤフー映画のレビューを見たら映画通には評価されている作品らしかった。

「チャンミンが一緒に見たいって、どの映画?」
「アニメの恋愛映画で、泣けるって評判なんです」
「あー! もしかして俺が見たかったやつかも!」
「じゃあ決まりですね」
「楽しみ~」

というわけで翌日、街中の映画館で待ち合わせをした。
恋愛映画を恋人と見るのは久しぶりだ。

大っきいサイズのポップコーンにコーラのL、フライドポテトを山盛りトレーに乗せて、
わくわくして上映を待った。
場内が暗くなり、予告編が始まる。

「僕はシネコンのこの予告編がやなんですよねぇ」
「え? なんで?」
「かったるいですよ、15分くらいやるでしょう?
単館の映画館だと上映する本数がないからすぐ終わるのに」
薄暗がりでチャンミンが苦笑するのがわかった。
「なるほど~。そんなこと考えたことなかった」
「無駄な時間を過ごしたくないんですよね」
「でも、こうやって暗い中で小声で話してると、ちょっとドキドキするじゃん」
チャンミンがポップコーンをがさがさザクザクと食べた。
俺は肩を寄せてチャンミンに言った。
「ポップコーンは音がするから予告編のうちに食べ終わるんだよ」
「このバケツいっぱいのポップコーンを15分で食べろと?」
「そうだよ、そういうルールなの」
「初耳だなぁ」
その時、遅れて入場してきたカップルが奥の空席を目指しカニ歩きでやって来た。
俺はトレーを持ち上げ、膝を引き寄せて道を確保する。
カップルは頭を下げて前を通り過ぎた。

「……ほらこんな風に、予告編があるからって堂々と遅れる輩もいるしね」
「そんなこと言わないの、たまたま、何かあったのかもしれないし」
「だってあの人たちジュース持ってましたよ」
「まぁね」

そんなやり取りをしているうちに、いよいよ上映が始まった。
アニメとは思えないほど背景の絵が綺麗だ。
ストーリーの内容もいい。
俺はぐいぐいと映画に引き込まれた。
後半の切ない展開に、ほろりと涙腺がゆるむ。
ハンカチを取り出して目尻に当て、こっそり横をうかがった。
チャンミンは腕組みをして、無表情で画面を見つめていた。
心なしか瞳が潤んでいる。
良かった、とホッと息を吐く。

もしこれがユノだったら──



「う…ぅ…ぐぇ、し…」
「ユノ、ハンカチ」
「ひっ……ぐ」
泣きながら、それでも画面から目をそらすのが惜しいのか、
ユノは涙で濡れた手で俺の手をまさぐっている。
「う…ぅっ」
押し殺したすすり泣きだけど、静かなシーンだけに周りの観客の視線が痛かった。
「もぅ、ほらユノ…」
身を乗り出して乱暴にユノの顔をハンカチで拭いてやる。
「ぐ……ごべんねジェジュア」
俺は既に映画どころではない。

絶対泣くんだから、感動系とか哀しい映画はよそうと俺が言うのに、
ユノときたらとりわけそんな映画が好きなのだ。

チャンミンとは違った理由で、俺はユノと映画にあまり行かなかったな、と思う。

その代わり、自宅でDVDをよく見た。
ユノは気に入った映画は飽きずに見たがる男で、
俺はセリフをそらで言えるくらい同じ映画をつきあわされた。

結末だってわかって見ているのに、ユノは決まって泣いた。
自宅ということで人目をはばからぬ、文字通り号泣だ。
「うっ、うっ、ひどい、あんまりだ!」
「お前よく同じ映画で毎回毎回泣けるね」
「ヴ~…だって悲しい……ひぐっ」
「見なきゃいいだろ、じゃあ!」
「だって、女優さんがタイプなんだもん」
「この女優が出てる楽しい映画を見れば良いだろっ」
「この映画の役柄が好きなの! ウゥ~…」
「だったら泣くなもぉ」
ぐずぐずと俺の胸に顔を埋めて泣くユノの背中をさすってやる。
すると映画のエンディングとともに、大概やつは寝落ちする。
「……子どもか」
泣きくたびれて眠る男を抱きしめ、俺は深いため息をつく。



一事が万事、そんな調子だったなぁ、と思い出し笑いをした。
「ふふっ」
静かな場内で、思った以上に俺の声が響きヒヤッとした。

映画後の食事に入ったレストランで、チャンミンに訊かれた。
「さっきなんで笑ってたんですか?」
笑うシーンじゃなかったですけど、と言われ、
まさか元彼のことを思い出していましたとも言えない。
「ごめん、一瞬寝てたみたいで、寝言」
「映画つまらなかった?」
「ううん、そうじゃないよ」
チャンミンは納得いかない顔してる。
「ここのパスタ美味しいよね」
俺はくるくるとフォークを回して麺を絡めた。
「普通…かなぁ」
「んとね、夏限定のトマトの冷製パスタが六月末から始まるんだけど、
それがすっごく美味しくて、毎年食べに来ててさ~」
「へぇ、ユノ先輩と?」
話題を変えようとする矢先にユノの名前を出されて、
危うくフォークを取り落としそうになった。

「うん、まぁ。そう…かな」
否定しても見透かされてる気がして、もう頷くしかなかった。
チャンミンはピザの皿を手元に引き寄せ、ピザカッターで切れ目を入れていく。
均等に切り分けられていくピザ。
皿がきしんだ音を立てた。

「ユノ先輩って、大学中退してから何してるんですか」
「知らない。……連絡取ってないから」
「そうなんですか。プロダンサーになるって言ってましたけど、専門学校でも通ってるんですかね」
「ん……学祭の時にスカウトされたプロダクションがあったみたいなんだよね。
だから、そこに所属してるのかな。知らないけど」
「実家って確か東北の飲食店でしたっけ。後継がなくていいんですかね」
「……。」
「ルームシェアしていたのに勝手に出て行っちゃうなんて、ちょっと無責任ですよね」
「…そうだね」

その原因を作ったのは、俺とチャンミンだけどね。







別の人の彼女になったよ 1



   
 別の人の彼になったよ




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ユノ。俺、別の人の【彼女】になったよ。


そう。チャンミンはいつも俺を彼女扱いだ。
それはこそばゆくて、歯がゆくて、俺をちょっぴり不安にさせる。
たとえベッドでの役割が女側だったとしても、
前の恋人とはまったくもって男同士のつきあいという感じだったから。

チャンミンは、俺に綺麗でいてほしいって思っているのを知っている。
料理上手で、控えめで、お洒落に手を抜かず、
誰の前に出しても恥ずかしくない恋人でいてほしいって思ってる……ような気がする。
俺もそれに応えたいと思う。
チャンミンはかっこよくて、年下だけど大人で、頭も良くて、誰もがうらやむような【彼氏】だから。
チャンミンとつきあうことで俺自身も向上していける気がする。


俺はこの春、めでたく全国に系列を持つ書店に就職が決まった社会人一年生だ。
恋人のチャンミンが都内の大学に通っているし、彼は首都圏出身だから、
できたらこのまま本社勤務になりたいと研修を頑張っているところ。


俺と元彼のユノ、そしてチャンミン。
俺たち三人の出会いは大学のインカレサークルだった。
ストリートダンスのサークルで、普段は自大学の体育館などで練習しており、
大きな大会の二ヶ月前から合同の練習や合宿なんかがある。
気軽にわいわいやるのが楽しい人間の集まりで、参加の頻度も個人の自由。
在籍する学生は300名ほどもいたけれど、そのうち熱心に活動していたのは50名くらいだろうか。

俺はそこで同じ大学の他学部の学生だったユノと出会い、仲良くなった。
ともに地方出身だった俺たちは、家賃の負担を減らそうと始めたルームシェアをきっかけにつきあうようになり、
恋人としての関係は大学四年の春まで、二年あまり続いた。
その前年の春、合同の練習で初めてチャンミンに出会った。
チャンミンは俺とユノの在籍していた大学よりもハイレベルな大学の学生で、
レッスン自体にはあまり熱心では無かったけれど、コンパやイベントにはよく参加していた。
当時の俺はチャンミンにまるで興味が無かった。
彼はよくモテる男で、サークル内でも何人かつきあった女の子を知っていたし、
俺に対して特に気がある素振りもみせなかったからだ。
サークル内で公認のゲイカップルだった俺とユノと、チャンミンの接点はほぼ皆無だった。


ユノというと思い出す出来事がいくつもある。

三年次の学祭を最後にサークルから遠ざかった俺は、遅まきながら就職活動をはじめた。
ユノも当然就職活動をするのだろうと思っていたけれど、一向にその気配がない。

ある日のこと、床にねそべりノートパソコンをいじっているユノに、
「ね~、エントリーシートってもう提出した? 
俺まだ自分が何やりたいかも決まってないんだけど、ユノはどこらへん狙ってるの?」
と訊いてみた。
俺は文学部で教職課程も履修していたから、一応卒業時に教員免許は習得できるわけなんだけど……
できれば都会で、憧れの出版業界に就職したいなぁ、なんてぼんやりと思い描いていた。
「ユノってばさ」
背後から覆い被さるようにしてパソコンの画面を見たら、ユノはダンスバトルの動画を見ていた。
「俺の夢? YouTuberかな…」
「あほか! この時期にそんな今時の小学生みたいなこと言ってるやついねーぞ!」
「真面目に言ってる……俺プロダンサーになってYouTubeで稼ぐわ」
「…なぁ」
俺は心配になってユノを覗き込んだ。

その年のはじめにあった震災で、ユノの実家である仙台のとんかつ屋は被災していた。
沿岸に建っていた店舗は津波の被害にもあったらしい。
ユノは長年父親ととんかつ屋の跡継ぎ問題で揉めてきたらしく、
あまり実家のことを話したがらない。
新幹線が復旧してからすぐに駆けつけてしばらく家業を手伝っていたから、
もしかすると、卒業後は地元に戻ってとんかつ屋を継ぐつもりなのかなぁ。
そしたら俺どうしよう。
遠距離恋愛以前の問題として、俺たち同性同士のつきあいには先がない。
別れたくはないけど……。

俺がじっと見ていたから、ユノがこちらに顔を向けた。
ほっぺにチュッとキスをされる。
ユノは普段、こういう何気ないスキンシップが多かった。
「ジェジュンア。俺の将来の計画は、卒業後にプロダンサーになって、
細々とでもいいから稼ぎながら、35過ぎたくらいでお前と結婚することなんだ」
「え?」
冗談とも思えない真剣な眼差しに、俺は唾を飲んだ。
「なんで35?」
いやなんで俺? が先だったかも。
「その頃には同性婚が認められてるんじゃないかと思ってさ」
「本気で言ってる?」
「ジェジュンア」
くるりとひっくり返ったユノの腹に乗せられる。
「俺、お前とつきあい始めてすぐから考えてたよ、将来のこと」
「そ…なんだ」

実は俺とユノはお互いに、同性とつきあうのは初めてだった。
元々親友同士がルームシェアを始めた、それだけの関係のはずが、
なんでかお互いを意識しはじめ(ユノのスキンシップのせいかも?)気づいたら恋愛関係に……
とはいえ身体を重ねるまでには相当時間を要したし、
最初のうちは、ユノがゲイポルノで学んだありとあらゆる体位や方法を試したせいで、
俺はセックス恐怖症になりかけた。
最悪だったのはペニスの他にディルドで二本差しをしようとしたことで、
溜め込んだ怒りを爆発させた俺にこっぴどい反撃をくらったユノは、それ以降まともなセックスに目覚めた。

俺が思うに、ユノは男同士ということを意識しすぎるあまり、極端なセックスに走っていたんじゃないだろうか。
ともあれ、それをきっかけに俺も我慢せず嫌なことは嫌、駄目なことは駄目と言えるようになったし、
セックスライフも充実していたと思う。

別れた今となっては、すべてが良い思い出になるから不思議だ。



チャンミンとのセックスは、時に変態チックなプレイを試みることはあっても、いたって普通という印象。
チャンミンも同性同士のセックスは初めてだったけれど、
さすが大学で文化人類学を専攻し、性風俗の研究をしているだけあって、
男同士のセックスのやり方はよく心得ていたし、無知から痛い目にあわせられることもなかった。
コンドームが無いのにやりたがることもない。
すごく酔っ払ってムラムラした俺が仕掛けた時も、大人な対応で断られた。
「アナルセックスは常に感染症の危険があるんですよ、ジェジュン」
「ん~…?」
「あなたもお腹を壊したりしたくないでしょう? 僕も尿道炎になるのはごめんだ」
「ふぁ~いチャンミンせんせー…」
それでも甘えたかった俺はスリスリとチャンミンに頬ずりしてみたけれど、
手際よくベッドに寝かせられた。
「枕元にお水置きました。鍵は外からかけていつもみたいにポストインしときますね」
「んー」
やがて玄関のドアが閉まり、カタリとポストの中に鍵の落ちる音がした。

そういやチャンミン、ここに泊まったことないなぁ……と夢うつつに俺は思った。













Double trouble 最終話




目が覚めた時、俺はユノに背後から抱かれていた。
あたたかな陽の光が、俺とユノの交差する足先をくすぐっている。
「あ…あー……」
かすれた声。
午後のボイトレまでには直るかな?

肩を抱く腕をよいしょと持ち上げて、ユノの方に向き直った。
素肌のままのユノ。
昨日まで俺のものだった、たくましい腕。男らしい脇。
微かな喉の手術痕。薄く開かれた唇。重なる睫毛。

もぞもぞとタオルケットに潜り込み、厚い胸に触れてみる。
色の濃い乳首。へそのくぼみ。そして、元気なペニス。

「フフ…」
今日から俺のものになる、チョンユンホのすべて。

「ん……ジェジュンア」
その声も。その唇も。
「おはよう」
「おはよ、ン…」
一日を始めるキスも。

「身体、平気か?」
「へろへろ」
「ですよね~」
俺の腰を撫でさする綺麗な手も。



部屋の時計を見たら、もう8時近かった。
弟たちは何か気づいているのだろうか。
朝食を作りに起きてこない俺をどう思っているんだろう。
チャンミンあたりは、察してそうだけども。
上手いこと兄たちを誤魔化していてくれることを願う。

ユノがクローゼットから服を放る。
とりあえずTシャツとパンツだけ身につける。

「ぅぅ…腰が」
片足立ちでパンツをはくことができず、仕方なくベッドに腰掛けてそろそろと脚を通した。
ユノはのんきに背中を伸ばしたりしている。

昨夜何度ユノを受け入れたか、もう定かに覚えていない。
はっきりと意識を保っていられたのは3回目くらいまで、
その後はただ揺さぶられ喘がされていた。

身体に残る違和感に頬が熱くなる。
なんか……。
「ずっと挟まってる気がする…」
小さく呟いた俺の声を耳ざとく聞きつけたユノが、
それはそれは嬉しそうに笑った。

「ユノって、どスケベだったんだね!」
ふんっとそっぽを向くと、そむけた頬にキスをされる。
「俺はお前の望みのままに」
「うそ。俺そんなにたくさんしたいって思ってなかったよ」
「そうか?……『俺がどれほどお前を好きで、一つになりたいと思っていたか』」
「んなーーーー!!」

俺の!心を!朗読するな!

どんとユノの胸を叩いたら、やっぱり抱きしめられた。

「好きだよジェジュン。いくらでもお前を抱きたいよ」
「……ばか。今度は休みの前の日、な」
まだ掠れている俺の声が、懐かしく頭に響いた。
ユノの腕の中で、ほっと力を抜く。

ただいま。俺の身体。
ユノに愛される、幸せな身体。

「次の休みにはナウンにお礼しに行かなきゃな~」
くしゃりと髪を撫でられて、俺は目を細める。
「お揃いのピアスも、もう一個くらいほしいかも」
「あーはは!」
部屋のドアを開ける前に、もう一度、俺たちはキスをした。


















Double trouble 18

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Double trouble 17